ドラムスのハイハットがカウントを刻み、ベース、キーボード、そして二本のギターが一斉に音を重ねる。「リッキー&ザ・フラッシュ」のギグが始まる。
何でもないオーソドックスなライブシーンに『ストップ・メイキング・センス』や数々の名作MVを生み出したジョナサン・デミの匠が籠められている。たった2分程度のフルコーラスで心は鷲掴みにされる。
ロックバンドの一曲目の一音目、ジャーンと掻き鳴らすギターの響きはその夜の価値を決めると言っていい。映画も同様、バーンとタイトルの出る瞬間に確信するものがある。
交わらない愛も愛であるとクールな眼差しが優しかった『レイチェルの結婚』のアンサーソングのような今作は、それぞれが一方通行だった愛が愛に振り向く温もりに包まれる。
心をほどくロックンロールのビートに乗って、家族は再生に向かう。
“解放された心に君のメロディが染み込んでいく”
“ブルーなときはギターの音色が慰めてくれる”
“喜びを与えてくれたリズムと響きとハーモニー”
やりきれない夜をやり過ごすのに、ジョナサン・デミの映画にどれだけ救われたか。
☆4.3
(2017/7/14)