散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

帰ってきたヒトラー

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ある日、友人の語った世界認識が忘れられない。
ユダヤ人の迫害は確かによくなかったが、それ以外のヒトラーの政策は素晴らしかった。あの間違いさえ犯さなければ、より良い世界は実現していた」と、一部容認するかのような態度。
もう10年以上前の出来事になるが、今も残る心の傷だ。

最近の日本で言うと、例えば、アイドルグループのナチスの軍服風コスチュームが物議を呼んだ。
あくまでデザインを一面的に模倣しただけでナチス礼賛の意思などなかったという擁護の意見も多く見られたが、それは反論に当たらない。

スタイリッシュで“ファッショナブル”な扇動であったこと。その帰結がホロコーストであったということは、ナチズムの本質である。
民の弱き心がカリスマを生み、より弱き劣る存在を規定することで自分たちを高みに押し上げようとする優生思想。
 
一部を恣意的に切り取って肯定する詭弁に騙されてはいけない。全体の指向するところを正しく読み解くことが重要。
繁栄の表裏一体にある犠牲の歴史に目を瞑ることは、それこそファシズムの再来を予感させる歴史修正主義である。
どこかの誰かさんの、教育勅語の“良いところ”を道徳教育へ導入しようなんて話も、似たようなレトリック。
「一理ある」という罠に陥ってはならない。

来る、極右ポピュリズムのワクチンとなり得るコメディの力。
「みんな最初は笑ってた」
嘲笑の裏には微かな共感が眠っている。建前に隠れた本音を“悪党”は呼び覚ます。
内なるヒトラーは、忘れた頃に帰ってくる。


☆3.6

(2017/6/27)