散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2023-01-01から1年間の記事一覧

ジャングル・クルーズ

インディ・ジョーンズよろしく秘境を旅するアドベンチャー。古くはサイレント時代より脈々と、冒険活劇の映画史に描かれ続けた男の浪漫を、現代に、ジェンダーレスに拓かれた夢として語り直すエミリー・ブラントの説得力。ガイド役にはドウェイン・ジョンソ…

ザ・マミー

ホラーにあらず。そんなものよりもっと恐ろしい、しかし目を背けてはならない残酷な世界の現実を映し出す。メキシコは麻薬戦争下、親を殺され、行き場を失ったストリートチルドレンの目を通して、暴力に支配された“壊れた王国”の絶望を知らせる。時より差し…

カオス・ウォーキング

余白のない、まるで映画的でないだだ漏れの感情にさらされ、自らの思考もその“ノイズ”の濁流に飲み込まれ消えていく。SNSに顕著な、稚拙で軽薄なコミュニケーションの寓意。一人で深く考えるといった機会は失われ、信仰と党派性に縛られた意思決定をあたかも…

フリー・ガイ

毎日、毎日、同じことの繰り返し。意味のないルーティンをこなし、誰かの人生の背景におさまって与えられた役割を演じ続ける私は一体、誰だ。 恋のときめきが、あるいは抑えきれない愛への衝動が、きっとそんな予定調和を一歩踏み出す原動力となりえる。 す…

アムステルダム

「美しいもののために生きましょうよ、少しくらい貧しくても」 “ほぼ実話”のアメリカ史をなぞる衝撃の陰謀劇よりも、愛と芸術に生きる一人の女性の、そんな平凡な人生訓こそ胸に響く。 あの『はなればなれに』を彷彿とするステップの多幸感。黒髪のマーゴッ…

ナイトメア・アリー

人の心を慰め、赦しもする嘘の魔力について。映画という嘘の作り話に“騙されたがる”我々観客の目の前で、語り手自身がそのペテンを暴露し、因果応報にふれるメタ構造。豪華キャスト、絢爛な美術セットが彩るデルトロ印のノワールに籠められた、業とも言うべ…

ナイト・ハウス

何もない。誰もいない部屋の、暗闇にただよう愛の残り香をたどる。 “無”へ引き寄せられる病者の見た幻。言ってしまえばトリアーの『メランコリア』とも同根の心象風景を映画という鏡像に重ね合わせる。つまり文字通り、一義的なメタファーとしての鬱映画。お…

シンクロニック

永遠の幻想に囚われのゴーストがさまよう。死ぬより、嫌なことがある。悲しい運命より立ち上がり、彼だけが持ちえた特殊能力に自己犠牲を働く、ある種のヒーロー譚にも読める。マーベルドラマ抜擢への布石がここにある。奇しくも次期キャプテン・アメリカ、…

フレッシュ

父権的なクソ社会に痛快なカウンターを食らわせるシスターフッド。例によってフェミニズムホラーであるが、一見、普通のラブストーリーがカニバリズムへと倒錯する寓意にこめられた絶望は深い。 ☆3.7

ザ・ウェーブ

酒もタバコもやらないし、違法薬物は許されない、その代替物として映画の過剰摂取をやめられない。夢うつつへのトリップ。本質的に幻覚的である、まばゆい閃光の明滅と音楽の快楽性が、おしなべて少なからずドラッグムービー的である虚構への一時避難を繰り…

バーバリアン

流行りのフェミニズムホラーを起点に、二転三転、先の展開がまるで読めない巧みな語り口。不吉な不協和音が神経を逆なで、気の休まることのない緊張感を持続する。不穏が恐怖へとそのおぞましい正体を露わにするとき、反面、ブラックな笑いに顔を引きつらせ…

パーキングエリア

吹雪に閉ざされた山小屋の惨事といえば『ヘイトフル・エイト 』を思い浮かべもするが、あのようなリッチな映画体験でなくとも、自宅で、配信ムービーで、あるいはもしかしたらタブレットでも同等のスリルと興奮を味わえる、味わえてしまう、ジャンル映画の汎…

エスケープ・ルーム2:決勝戦

真の勝利はゲームを勝ち抜くことではなく、この理不尽なゲームから降りる、または破壊することにある。二作を通して顕在化するYA的世界観に、全米ローカルヒットの文脈を読む。 通常版とエクステンデッド版でエンディングどころか、根本的なストーリーさえ違…

エスケープ・ルーム

ソウ×キューブ的なデスゲームからゴアを廃した、よい子に優しいリアル脱出ゲーム。ストーリーを語るわけでもなく、謎解きの快感に全振りするライド型エンターテインメントの一種。佐藤健とノブのコンビで見たいやつ。 ☆3.2

キラー・ジーンズ

ジーンズが人を襲うなんてZ級のワンアイデアにもかかわらず、ルックは安っぽくないし、怖いシーンはしっかり怖くて感心する。もちろん笑える、あるいは失笑のホラーコメディである。スプラッターにはユーモアが溢れる。一方で、ファストファッションが抱える…

プレデター:ザ・プレイ

生きるために殺す。人が生き抜くための業に迫られた殺生ゆえに、血を流す全ての生き物たちへの畏怖が、ソリッドなアクションに、痛みを感じさせる必然的な残酷表現に描かれる。美しく。ネイティブ・アメリカンのヒロイン像が、それまでの儀式的な、マチズモ…

ミスター・ガラス

“秩序”ある社会の名の下に、日陰に追いやられる者たちが縋る「物語」への信仰。たとえ妄想と罵られようとも、虚構に見出す真実にこそ自らの存在理由を託す。 『スプリット』に次ぐまさかの続編に『アンブレイカブル』を復活させるシャマランユニバースは、ま…

ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー

イルミネーションマナーがその対象年齢の子供たちを存分に笑顔にする傍らで、大人の観客こそノスタルジーに歓喜、むせび泣く最高のファミリームービー。誰もが一度はプレイしたことのあるマリオワールドが眼前に広がり、縦横無尽の3D空間によもやの2D演出を…

ヒッチャー ニューマスター版

『ブレードランナー』を思い起こす雨と光のレイヤーに、ルトガー・ハウアーのカリスマが浮かび上がる。凶悪かつ純粋な狂気に引きずり込まれる恐怖のデス・ロード。無人のハイウェイに砂漠の荒野を想起すれば、マッドマックス的なカーアクションの神秘性に美…

エスケイプ・フロム・トゥモロー

ディズニー非公認のゲリラ撮影という触れ込みをもってして、カルトムービーになり損ねた本作もまたB級映画の有象無象。リンチやノーランやダーレン・アロノフスキーのようにはなり得なかった男の、卑俗な妄想に付き合わされること90分のめくるめく“悪夢の王…

ザ・メニュー

キャスティングの妙。ありきたりなジャンル映画のB級プログラムを、レイフ・ファインズの品格とアニャ・テイラー=ジョイの眼差しがウェルメイドな一流コースメニューへと仕立てあげる。古典ミステリーのような深い味わいに、頓知のような鮮やかなオチの乙な…

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム

大義に人生を捧げるか、否か。先人たちの葛藤を軽やかに止揚し、そのどちらでもない選択肢を生きようとする新世代ヒーローのあっぱれ。自己犠牲なる病から完全に解放されたかに見える明朗快活な青年と、愉快な仲間たちとの青春群像に心を温める。壮大なシリ…

ロスト・アイズ

『ロスト・ボディ』からの『ロスト・アイズ』。主演女優つながりで、共にスパニッシュ・スリラーの良作。 盲目のヒロインというある種の定型に加え、進行性の病に侵されていく不安感、閉塞感を画面の視野狭窄に表す恐怖演出。“見えない”という絶望と隣り合わ…

アベンジャーズ/エンドゲーム

大義をかけた戦いに終止符が打たれることはなく、やはり正義が悪を真に打ち負かすことなどあり得ない。敵を滅ぼすことでしか勝利できないゲームのもとでは、闇に光を当て、光は影を落とす、その繰り返しでしかない。あまりに虚しく、悲しく、あるいは不毛な…

元カレとツイラクだけは絶対に避けたい件

高所、閉所恐怖症的な圧迫感と何かしらのトラウマ的残像が呼び起こされる悪夢のワンシチュエーション。動悸、息切れ、この胸の高鳴りは吊り橋効果どころの騒ぎじゃ済まない、ヒコーキ墜落5秒前……。 おもしろ邦題の成功案件。 ☆3.2

ホラーマニアvs5人のシリアルキラー

一夜の巻き込まれ型サスペンス、っていうか自ら巻き込まれていくスタイル。ゴアとロマンを詰め込んだ、映画オタクの悪夢的妄想。80sジャーロへの郷愁だとすれば、ギラギラ照明や音楽の意匠に限らず、恐怖がコメディに変態する倒錯した世界観が現在のジャンル…

キャプテン・マーベル

出しゃばるな。感情的になるな──。など、差別的なつもりでなくとも社会規範の如く内面化してしまってきた抑圧、女はかくあるべしという刷り込みをことごとく覆していくグランジガール。怪訝なまなざしを向ける群衆を割って闊歩する様の痛快なことよ。 フェー…

アントマン&ワスプ

超ヘビー級のアベンジャーズ最終章を繋ぐ箸休めとして、実に小気味よくヘルシーなアクションコメディの“小品”。ミニミニ大作戦。正義を謳うがゆえの闘争もなく、親子愛を軸に誰も悪者にしない牧歌的かつ、ヒーローの本質に改めて回帰するかのようなピュアで…

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー

最大多数の利益のためなら、多少の犠牲はやむを得ない。救済の名を借り大量虐殺を正当化する。それも一つの正義、あわや“一理ある”と思わせかねない合理主義的なリアリティの化身。その普遍的かつ極めて同時代的なスーパーヴィランへの危ういシンパシー。対…

マイティ・ソー バトルロイヤル

マーベル印のコメディタッチに輪をかけてオフビートなタイカ・ワイティティのギャグセンス、キャスト陣の内輪ノリに全くついていけず、ただ「移民の歌」がけたたましく鳴り響く神々の戯れを冷めた目で傍観する。トラッシュな男たちのブロマンスよりも、豪胆…