散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム

大義に人生を捧げるか、否か。先人たちの葛藤を軽やかに止揚し、そのどちらでもない選択肢を生きようとする新世代ヒーローのあっぱれ。自己犠牲なる病から完全に解放されたかに見える明朗快活な青年と、愉快な仲間たちとの青春群像に心を温める。壮大なシリアスに堕ちたマーベルシリーズを再び浮上させるため、フェーズ3の最終作に喜劇としての終幕を飾る。

フェイクニュースやら何やらと、真実は闇に埋もれ、正義さえまるで“多元宇宙化”する混沌の時代。かつての二元論はもはや机上の空論と化し、あまつさえ大文字の議論は安易な陰謀論にも取り込まれかねない。巨悪は分散し、ますます複雑化、高度化していく社会の中で、圧倒的劣勢を背負わされるヒーローがそれでもヒーローであり続けるとすれば、それはピーター・パーカー彼のように、自らも市井の一員として小さな物語を紡ぐ者の成す“正しさ”への共感であろう。真の友は隣人にあり、悪とて然り。神話の民主化を推し進める。


☆3.6