散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2023-01-01から1年間の記事一覧

戦慄怪奇ファイル コワすぎ!最終章

POV作品としては稀有なほどのキャストのカリスマでもって牽引するシリーズにあって、工藤、市川の不在を補うべく、カメラマン田代が奮闘を見せるも力及ばずといったところ。宇野と白石の虚実をうつろう迷コンビも、「コワすぎ最終章」と身構えることにはやや…

青いパパイヤの香り

琵琶の旋律に虫の声、鳥のさえずりが響き合う静謐で流麗な映像美に反し、戦闘機の轟音やよもや怪談のそれのような不穏で不可解な劇伴との不協和音は、対位法による重層的なテクスチャ、あるいは『ミツバチのささやき』をも想起する暗喩表現を思わずにはいら…

アーカイヴ

夢ならば覚める。悪夢とて終わる。それが過去に起因する記憶の“アーカイヴ”に過ぎないとしたら。現在、未来へと絶え間なく押し寄せる時間の波に埋もれ、その喜びや悲しみさえもやがては薄らいでいく人間の無常。片や、命ある限りにおいて、永遠を有する人工…

ブリタニー・マーフィ -人気女優 死の真相-

誰もを魅了する屈託のない笑顔、共演者と恋に落ちれば虚実ないまぜのラブストーリーをフィルムに焼き付ける。その天性の純真さゆえにハリウッドの魔境に迷い込み、メディアの狂騒に苛まれ、そして虚言癖のソシオパスにマインドコントロールされ落ちぶれてい…

エイドリアン 亡き妻が世界に遺したもの

『アンビリーバブル・トゥルース』、『トラスト・ミー』と、初期ハル・ハートリー作品のミューズ。さらには昨今のムーブメントにも繋がる、フェミニズム映画作家の先駆けでもあったエイドリアン・シェリーの半生を称えるドキュメンタリー。しかしながら、200…

ブータン 山の教室

『ミツバチのささやき』のアナ・トレントを彷彿とする、純真無垢なダイヤの原石。きっと誰もが目を奪われる、ヒマラヤ山脈の秘境に暮らす9歳の少女、ペム・ザムとの出会いが本作の成功を約束する。 “世界で一番幸せな国”にもグローバリズムの波は押し寄せる…

アメリカン・レポーター

米軍撤退によるタリバン復権以降、2023年現在、アフガニスタンの女性たちが強いられる抑圧状況を鑑みるに、(たとえ2016年の作品だとしても)今作における、いかにも“アメリカ白人女性”的な自己実現の葛藤など、あまりに瑣末。無責任で欺瞞的な戦争当事国と…

ホテル・ムンバイ

搾取構造を温存し、貧富の差を拡大させておきながら、人々を不用意に近づけすぎたグローバリズムの歪みが局所に噴出する。 立ち並ぶ高層ビル群を傍目に、ゴミだらけの岸辺へゴムボートで乗りつける若者たちが向かった先は、『スラムドッグ$ミリオネア』でフ…

めぐり逢わせのお弁当

間違った列車に乗っても正しい場所にはたどり着くか──。 著しい経済発展を遂げるインドは大都市ムンバイの今を、名目上では計れない市井の生活に寄り添った繊細なまなざしによって切り取る、非ボリウッド製の人間ドラマ。社会通念を反映してか、不倫に対する…

クジラの島の少女

切れたロープを結び直す少女。“運命”に逆らい、滅びゆくマオリの伝統を受け継ぐ少女とクジラ伝説の神秘。 島を愛し、家族を愛し、凛々しくたくましく生きるヒロインのまっすぐな眼差し。その純粋な瞳から零れ落ちる涙の美しさは、たしかにアカデミー賞ものの…

RUN/ラン

RUNを「走れ」ではなく「逃げろ」と翻訳すべく時代のジャンル映画。近年のフェミニズムホラーにも通底する抑圧的な世界観──強権的な支配からの“自立”を勝ち取るべく戦いはなにも、有害な男性性からの解放を謳う女性の物語ばかりではない。その不等な搾取構造…

シャドウ・イン・クラウド

狭い爆撃機の銃座に閉じ込められたクロエ・グレース・モレッツの一人芝居、ゲス男どものハラスメントをひたすらに耐え凌ぐ前半部を経て、怒りのヒットガール降臨。そんなまさか、荒唐無稽な痛快アクションの連続に、有害なホモソーシャルを蹴散らし、ころが…

恐竜が教えてくれたこと

悪い夢でも見たのか、急に世界に独りぼっちな気がして、両親の腕の中で泣いた夜のこと。ふと死の概念を理解してしまい、大好きなあの人もこの人ともいずれお別れしなければならない運命を知った、幼すぎた愛の“記憶”。それ以来の恐怖にそして悲しみを、僕は…

デス・バレット

髑髏、炎、銃口、そして顔、顔、顔への極端なクローズアップ。傾いたカメラに、やたらにカットを刻む“スタイリッシュ”な画作りは、全編キメキメのショットが連続する実験映画的オナニズム。フレンチウエスタンを下敷きに、露悪的なエログロ表現も抜かりなく…

心と体と

障害の字をひらがなにしたり、特性と言い換えたりしたところで、彼らを包摂した社会の実現には程遠く。普通という名の同調圧力に阻害され、押し潰される心の痛みは計り知れず。わかったつもりにもなれないほどのディスコミュニケーションが横たわる。愛とい…

レイズド・バイ・ウルブス/神なき惑星 シーズン1

アンドロイドを介し、むしろ自由意志を持たないはずのアンドロイドにこそ感情移入して、“ヒューマン・ビーイング”を探求するスペキュレイティブ・フィクション。人類(カルト)vs.アンドロイド(無神論)の皮肉めいた構図に、先住するエイリアンとその造形を…

5パーセントの奇跡 嘘から始まる素敵な人生

視覚メディアに追体験される“見えない”ということへの恐怖と閉塞感。そのリアリティに対し、誰もが“障害”に手を差し伸べ、夢見ることを諦めさせない優しい世界のファンタジー。虚構に希望を託す、それも映画の良心。「幸福への道はない、歩みこそが幸福なの…

THE LAST OF US

生きることに絶望した男が最後の希望を少女に託す、そんな紋切り型のロードムービーがポストアポカリプスのまさしく世界の終わりの風景と重なり、ゲーム原作とは思えないほど深遠でそして多様な人間模様を紡ぎ出す。 いずれ終わる、意味もない。それでも進み…

スコーピオン・キング

さながらWWEのリアリティライン。ハムナプトラ2の設定どこ行った、まるでヒールから善玉レスラーへと転向し、正義の大立ち回りを演じるスコーピオン・キングこと、ロック様こと、ドウェイン・ジョンソンの映画本格参戦。 ☆2.8

ハムナプトラ2 黄金のピラミッド

彼らにとってのインディー・ジョーンズが、僕らにとってのハムナプトラシリーズ。我らがブレンダン・フレイザー。レイチェル・ワイズのキャットファイト。そして大人になって見返すことには、イムホテップの悲しき愛の結末に同情を禁じ得ない。愛とロマンと…

ホモ・サピエンスの涙

Studio24の住人たちにまた会えたよろこび。 すべてがあまりに早く過ぎ去ってしまう現代の日々に、時間を遅らせるアートの営み。しばしの休息に孤独を癒し、隣人愛をとりもどす。誰もが問題を抱えて生きている、その苦しみや愚かさをオフビートなユーモアで閉…

日曜の夜ぐらいは...

ありがとう、ごめん、いいねがもうしつこくて、必要以上の優しさが野暮で、でもそこから始めなくちゃいけないくらいに脆く、壊れてしまった現代を生き抜く戦士たちのしばしの休息。こんなことがあったらいいな、こうであったらいいのになという願いに救済を…

THE FIRST SLAM DUNK

わかりきった結末をなぞる、スローモーションの無の境地。そのカタルシスはまさにゾーンの追体験。身体性を伴う感情の揺らめきにこそ人は動かされる。 さりげなくも、やはり。「あきらめたらそこで試合終了」という不屈のメッセージが、宮城リョータにさえな…

だが、情熱はある

“で”いいじゃなくて“が”いい。うまそうより、うめぇ!と言える人生への当事者性を示すべく、小ネタや再現にハスることなく、その愛やリスペクトを情熱に伝播する一球入魂。ファンムービーかくあるべし。 ★4.0

あの頃をもう一度

音楽が鳴り出せば、ステップを踏むだけ。ビートに合わせてグルーヴに揺れ、そして分かち合う。恋人たちは雨に唄う。簡単なことだ。鼓動を感じて、時を止めないで。愛を捨てないで。“あの頃”を駆け抜けて、それぞれの場所でそれぞれのやり方で、人生は踊る。

紙ひこうき

まるで『ラ・ジュテ』のようなモノクロの逆光に、振り返る彼女のおぼろげな横顔。一期一会の恋が交差する大都会、東京の想い出をかさねる。

ケイコ 目を澄ませて

川のせせらぎも、鳥のさえずりも、ギターの音色も彼女の耳には届かない。だけど、川面はゆらめく、鳥たちは羽ばたく、踊り出すステップに音楽は聴こえる。風をきって走る。ミット打ちのリズム、スパーリングの息遣い、軋むリングに全身全霊をかけて、静寂に…

ペーパー・タウン

人生最高の夜が、たとえ君にはそうでなくとも、そうではなかったからこそ切なく美しい恋の思い出を抱いて、僕はどこまでだって生きてゆける。悪友たちとの青春は終わり、そして始まる新たな旅立ちを物語る。それぞれに不滅のスタンドバイミーは鳴り響く。 カ…

ノット・オーケー!

さしたる苦労もなく、なに不自由なく生きてこられたがゆえの、普通で平凡な人生へのコンプレックス。 何でもあるというのは何もないことにも等しい、何をやっても実感に乏しい。物資的な豊かさと引き換えに、もはや現代病とも言うべき心に闇を抱えた若者たち…

アレクサンダーの、ヒドクて、ヒサンで、サイテー、サイアクな日

なんとかなるさ。なんとかしてみせるさ。 彼らのそれは、きっとその場しのぎの気休めなんかじゃなくて、今日の日がどんなに辛く悲惨であろうと明日は必ずやってくる、明日への希望を信じ、共に生きようと約束するつまり愛の言葉。不運であっても不幸にはしな…