散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

エイドリアン 亡き妻が世界に遺したもの

アンビリーバブル・トゥルース』、『トラスト・ミー』と、初期ハル・ハートリー作品のミューズ。さらには昨今のムーブメントにも繋がる、フェミニズム映画作家の先駆けでもあったエイドリアン・シェリーの半生を称えるドキュメンタリー。しかしながら、2006年はハロウィンの翌日に起きた事件を知る者たちにとって、少なからず悲劇を共有する映画ファンとしても胸が張り裂ける思い。まるで、メガホンをとる夫より亡き妻へ贈るラブレターは、その愛を紡ぐほどに悲しみが募る。癒えるはずのない喪失の傷、やり場のない怒りに無念が滲む。たった10年、時間は止まったまま、いまだ深い闇の中で幻影を追い続ける男の虚ろなまなざしは、生涯に渡りその“死と向き合い続ける旅”の困難を示す。
例えば、シャロン・テートを虚構の光で弔い、救い出したのとは対照的な、暗い影が現実を覆う。


☆3.8