散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2020-01-01から1年間の記事一覧

ER緊急救命室Ⅲ <サード・シーズン>

神の如く御業がたとえ命を救ったとしても、その人生を救うことの意味は別にある。人生を苦難から再び立ち直らせるために必要なもの、それは本人の強い意志の力をおいて他にない。 尊敬する師が、親愛なる友がいくら手を差し伸べたところで叶い得ない願いがあ…

ER緊急救命室Ⅱ<セカンド・シーズン>

インターン、レジデント、スタッフドクターと。経験を積み、責任を負うごとに複雑化する組織のリアリティー。現代医学の限界と無力さに打ちのめされながら、不条理とも言える社会システムの残酷さに義憤を募らせながらも、“大人”になっていく彼らの群像。そ…

失われた週末

なりたい自分になれない自分の、如何ともしがたい理想と現実のギャップが人生の苦悩というものならば。酒や女や“銃”への誘惑に埋め合わされる悪夢や恐怖の風景にこそ、彼の人生は意味づけられる。人生の悲劇に溺れ、その絶望を“書くこと”でのみ生き続けられ…

ER緊急救命室<ファースト・シーズン>

言わずもがな、医療ドラマの最高峰。Emergency Room(救急救命室)を舞台に繰り広げられる命のドラマ──などと感傷に浸っている暇などないほどに、目まぐるしく壮絶な、まるで戦場に飛び込むカメラの臨場感。 連日連夜、隣り合わせの生と死を綱渡りする緊張感…

狼は天使の匂い

『狼は天使の匂い』と、記憶の片隅にあったであろうそのタイトルを告げられるという夢を見たのが昨晩のこと。そんな深層心理に導かれるままに、早速、ハードディスクの録画リストを少し遡って、町山氏推薦の本作を観る。『禁じられた遊び』、『太陽がいっぱ…

フランケンシュタインの花嫁

望まずして生まれ落ち、わけもわからない世界の混沌と、孤独の中を、右往左往する怪物に重ねられるのは人間そのものの悲哀。 雷鳴の轟く夜に。心を癒す美しい音楽や友の温もりも束の間。その怪奇物語のカタルシスとは、やはり悲劇によってもたらされる一筋の…

フランケンシュタイン

名作『ミツバチのささやき』において主人公アナの目に焼き付いた、怪物と少女をおそう悲劇。映画史上、最も重要な1シーンは思っていたよりも早くに訪れる。 その後、クライマックスに見た光景は、“松明を持った村人たち”に象徴化される、普通の人間たちの愚…

特捜部Q Pからのメッセージ

この世に厳然と悪は存在し、救いきれない命というものがあり、そして絶えず悲劇は繰り返されているという、どうしようもない悲しみと怒りに震える。その業とも言うべき人間の罪を、背負い過ぎるあまり病んでいく心。その陰鬱な心象風景と重なるかのごとく静…

日本沈没

思考実験、文明論としてのハードSF。その帰結としてのヒューマニズム。そして人間の無力。 ゴジラを上回る自然災害のカタストロフィが日本列島を襲う。その“虚構”に映し出される恐怖と絶望の光景は、公開から半世紀の現在により真実味を増して訴える。 ○○年…

アンドレス・イニエスタ -誕生の秘密-

「ゴールを決め、優勝したとき、友を思い出すのがフットボールだ」 盟友フェルナンド・トーレスのそんな言葉が、美辞麗句でも何でもなく、“我らが”アンドレス・イニエスタ──あるいは世界最高のフットボーラー。間違いなく、世界で最も愛されたフットボーラー…

バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3

三部作、とはいえ一続きの、まるで一夜の夢のような大冒険がついに幕を下ろす。 目覚めの時──そこに母の姿はなく──それは少年が大人になるための物語の終わり。 大人になるということは、“白紙”の未来を自らの手で切り開いていくということは、あり得べき未…

黒い箱のアリス

いくら悲しみの慟哭が耳を突き刺し、どれだけの痛みがその柔らかな肌を貫こうとも。または如何なる残酷に手を染めてまでも、守り抜こうとする“思い”。 たとえ報われない思いと知りつつも。それがどんなに“空虚”であろうとも。あり得べき最善の未来へ──執着せ…

エリザベスタウン

あの頃。まさに希死念慮に囚われ、完全に人生をロストした僕の、メランコリーをロマンティックに変えたいくつかのラブストーリーのうちの特別な一本。運命との暗い約束を心に誓って過ごす日々に、その決心を思いとどまらせたのは、映画という新たな友との出…

キラー・メイズ

不思議の国の“デイブ”の迷宮はダンボール製。自分で作ったガラクタの山に身動きがとれなくなってしまった悲劇か喜劇か。 大人になりきれない男が作り上げた、複雑に入り組んだ自意識の袋小路。恋人も親友たちも、もう救い出すことはできず、むしろ彼らを呑み…

クロール ー凶暴領域ー

忍び寄る彼らの横顔はまるで小さな恐竜。なるほどジェネリック・ジュラシックパークの如くよくできたワニワニパニック。 ほぼワンシチュエーションのタイトなスリラーでありながら、刻一刻と迫るタイムリミットに、絶望に次ぐ絶望の光景がめくるめく押し寄せ…

逃げるは恥だが役に立つ

夫婦を超えてゆけ二人を超えてゆけ一人を超えてゆけ それは(おうち時間を「“うち”で踊ろう」と言い換えたように)あらゆる多様な個人を内包する恋のうた。私たちを縛るすべての──当たり前、常識、普通、そんな呪いのような言葉からの解放をうたう愛の物語。…

アップグレード

人生を襲うまごうことなき絶望に際し、その過酷な現実と人間らしく戦い続けることと、平和な仮想世界に死んだ心で耽溺することの二者択一を迫られたなら、後者を選ばないとはとても言えない。 もはやそんな選択肢が机上の空論でもなくなりそうな時代。 新し…

バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2

誰かを想う時、誰かの人生に思いを馳せること。それはいつも、その歴史の分岐点、在りし“ラッキーデー”を巡る記憶のタイムスリップ。巡る因果のドラマチック。今、この現在の君を守り抜くために、過去へと向かうパラドックス。相変わらずのマザーコンプレッ…

ファイナル・アワーズ

I love you. それはセックスやドラッグに誤魔化される恍惚とは別の。自分の本当の、あるべき姿に向けられる救いの言葉。 こんな梅雨の晴れ間、爽やかな風が吹き抜ける土曜の午後に。またも眼前に広がる世界の終わり。依然として心に巣食う終末願望、あるいは…

残酷で異常

「それが重すぎたとしても、君を愛し続ける」 愛もその罪も、究極的な利他性にのみ許される。身を滅ぼすほどの“残酷で異常”な、そんな愛〈EGO〉の悪夢も安らぎに変わるはず──。 ☆3.0

ヴァスト・オブ・ナイト

「パラドックス・シアター」 まるで『トワイライト・ゾーン』を模したイントロダクションに語られるミステリーは、ずばり『未知との遭遇』の変奏。 テレビドラマ的な演出を随所に、しかし純然たる映画的快感に溢れるカメラワーク、さらに巧みなダイアローグ…

AKIRA

「もう始まっているからね」 いつも、誰しもがすでに始まっている渦中にある。生まれたときから──サルが道具を使うヒトへと進化した頃からか、あるいはその遥か昔、この美しい地球を生み出した宇宙誕生のビッグバンの瞬間からか。カオスとコスモスのせめぎ合…

バック・トゥ・ザ・フューチャー

自分の行動次第で「未来は変えられる」という希望と、「在りし未来が失われるやもしれぬ」という恐怖の狭間に立ち尽くす僕にとって、それは僕の映画に違いなく、その葛藤をあまりに爽やかに、軽やかに、“愛の力”で突破するマーティ・マクフライという主人公…

名探偵ピカチュウ

プロローグを経て、ピジョンと共に滑空し、原っぱに駆けるケンタウロスを見下ろすオープニングショットの高鳴りは、あの『ジュラシック・パーク』で“生きた”ブラキオサウルスを目の当たりにした時のそれと匹敵する──と言ってしまうのも、それが童心に抱いた…

手紙は憶えている

人は生きるために忘れていく。全てを忘れずになんていたら、到底、正気ではいられない。狂ってしまう。都合よく忘れるべくして忘れ、時に嘘で身を守ってやり過ごすのである。 男の復讐は、それを、最も思い出してはならない過去を、当人に突きつけるもの。償…

500ページの夢の束

伝えたい物語があるのはきっと、届けたい人がいるから。 物語を紡ぐのは。物語に涙するのは。そんな物語なくして生きてはいけない僕たちは、伝えたい想いを物語に託すから。 これは自閉症を抱える“少数”の者たちに当てられた希望の光にとどまらない。同じ広…

ブラックパンサー

民族音楽をモチーフとしたプリミティブなBGMが鼓舞するアクションの肉体美。その伝統を背景とした衣装、デザインに融合する最先端テクノロジー。 アフロ・フューチャリズムという名の“黄金郷”に、アフリカ並びにアフリカ系アメリカ人の歴史と今を投影し、"Lo…

ズーランダー NO.2

オリジナルキャストの続投に加え、豪華ゲスト俳優陣、ファッション界からのカメオ出演。スティングをはじめ音楽界からも、ジャスティン・ビーバー、スクリレックス、アリアナ・グランデ、ケイティ・ペリーなど、他にも数え切れないほどの“ポップ・スター”狂…

365日のシンプルライフ

「所有とは責任」 誰もがモノに囲まれた生活は、それを営んでいることの実践の表れ。 その重荷を一旦下ろさなければ潰れてしまいそうだった。日常をできる限り離れて、不幸について、つまり人生について考えるだけのスペースを確保する必要がきっとあった。…

オンネリとアンネリのおうち

本当はすべての出来事に理由なんかはないのだけれど、その不思議な偶然の一つ一つに意味を与えて、物語で繋いであげればきっと、この世界はなんて美しく。人生は素晴らしく。色とりどりの感動に溢れた愛と冒険の日々──。ハッピー・エンディングはそうして作…