人は生きるために忘れていく。全てを忘れずになんていたら、到底、正気ではいられない。狂ってしまう。都合よく忘れるべくして忘れ、時に嘘で身を守ってやり過ごすのである。
男の復讐は、それを、最も思い出してはならない過去を、当人に突きつけるもの。
償い切れない大罪、つまり背負いきれない過去というものを知りながら。穏やかな人生の晩節に、再び真実の記憶を呼び覚ます所業である。
罪を憎んで人を憎まず。ならば、罪を忘れさせてなるものか。償われて然るべき罪を裁く。真っ当に、残酷に、正義をもってして果たされる、完全犯罪とも言うべき復讐劇。
☆3.4