散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

狼は天使の匂い

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狼は天使の匂い』と、記憶の片隅にあったであろうそのタイトルを告げられるという夢を見たのが昨晩のこと。
そんな深層心理に導かれるままに、早速、ハードディスクの録画リストを少し遡って、町山氏推薦の本作を観る。『禁じられた遊び』、『太陽がいっぱい』で名高い巨匠ルネ・クレマンの知られざるカルト映画だそう。

それは大人になりきれない大人たちの、父にはなれない男たちの、“不思議の国”のお伽話。眠りに就く前にむずかる年老いた子どもたちの──夢かうつつか、憧憬か。罪なほどに純真なロマン。たとえば“アメリごっこ”なんていう──彼らにとっての“禁じられた遊び”は、まるで天使の戯れのように。

フランシス・レイの哀愁を帯びたノスタルジックな旋律が、アウトローたちの、つまりは狼たちへの挽歌をうたうように。

斜陽の差し込む窓の外から、最近では滅多に聞くことのなかったヒグラシの鳴き声が共鳴する詩情に、夏の匂い。

何時になくそんな幻想的な映画体験が白昼夢のように。夢うつつのままに、心に深く刻まれる物語。これもまた忘れえぬ夏の記憶となろう。


☆4.4