映画ポエム
突難を二度も患った身としては、全く他人事ではない失聴の危機を追体験する。耳鳴りに始まり、水中に突き落とされたようなこもった世界に、実はノイズで溢れる難聴の症状を音響効果にて再現する。まさにあの数週間の悪夢がよみがえる。 聞こえるはずの音が聞…
ロネ・シェルフィグの過去作で言えば『幸せになるためのイタリア語講座』に通じる、弱き者たちの繋がりに救いを見出す群像劇。誰もが手と手を差し伸べあって生きていくべき隣人愛を謳う。しかし、そんな真っ当なドラマがおとぎ話にさえなり得ず、空虚に流れ…
すかし芸がことごとくハマる。ドメスティックなはずの笑いのツボを共有しうる日仏の親和性。恐怖と笑いが紙一重ならば、エログロを許容してきた両者の歴史を鑑みるに、今作がハリウッドリメイクではなかった必然性が感じられる。 血と汗と涙とゲロの結晶。“…
ドレスを纏う乙女の恍惚。恋に恋するときめきのような。 いつまでも美しくありたい、その純粋な美への欲望。誰のためでもなく、むしろ私が私であるために着飾る“実存的”な、オシャレがあてどない人生の原動力ともなりうる。ジェンダーレスの世とはいえ、まだ…
150分の長尺の大半が映画的アクションとは分離した、説明のための説明描写であり、見ることよりも理解することに労を割かれるノーラン節がここに極まれる。逆再生というプリミティブなギミックも有機的に機能しているとは思えず、理の通らない難解さにもギブ…
エコーチェンバーに陰謀論と蔓延るこのご時世に、非科学的なカルトを結果的に肯定しかねないシャマランの迂闊さ。世界の命運を“物語”に託し過ぎることの暗部がここにきて露呈する。 ☆3.2
『新感染』の衝撃から4年。ゾンビで埋め尽くされた韓国は仁川で、さながらマッドマックスのようなカーチェイスが繰り広げられる。主人公が一般市民より武装した元軍人となれば、アクション過多にバイオハザート化する、ゾンビの存在感は薄まり、一番怖いのは…
未知との遭遇×ジョーズといったスピルバーグ的スペクタクルを表層に、深層に映画についての映画を語る。 カメラを向ける暴力性、本質的に見世物である映画の残酷性を、らしく“幻の黒人スター”を背景に、寓意に富んだ、謎に満ちたホラーに展開する。黒い肌と…
“FPS”なる主観映像の、無料のPCホラーのようなクオリティに気を失いそうになるが、恒松祐里を一人称とする第二部からが本章。画面映えするヒロインと、半ばコメディと化す小気味よさがB級らしく救われる思い。サトエリの異様なほどの下手な芝居が回収される…
自らの病状を語る子どもたちの明晰なこと。すでに運命を受け入れたかのような達観した面持ち。人より早く命と向き合わざるを得なかったばかり、人より少し早熟でなければならなかっただけ。それがすなわち不幸とは限らない。不運であって不幸ではない。と、…
ガキの悪ふざけがもはや命がけのスタントに。年齢を重ねる分だけ純度を増すバカの境地。いつまでもウンコチ◯チ◯で笑い転げるおっさんの醜態に呆れつつも、心のどこかで羨ましくもある。 ☆2.9
もろ“Lust For Life”なフレンチロックのビートがラフマニノフ、ピアノ協奏曲第2番のクライマックスへと転ずる。トレスポオマージュの逃走劇にはじまる不良少年の街角ピアノ。 好きなことを見つけられる才能と、道を指し示すべく、師たる大人の存在に出会うこ…
「世界は素晴らしい」 大人が子どもたちに示すべきたった一つのメッセージ。 ☆3.0
“小さき者の運命が世界の未来を決める” 北欧の雪景色に映えるパステルカラー、ドリーミーなSEが断続的に鳴る浮遊感。舌ったらずなフィンランド語が可愛らしいオンネリとアンネリのおとぎ話は続く。でも、ちょっと大きくなった彼女たちの“お人形遊び”には、差…
娼婦に聖女を、ミューズとしての女優を重ねるロジカルな女性史観が、アンナ・カリーナの息遣いにダンス、さらには大粒の涙を流す肉体より魂を見つめるカメラのクローズアップに結実する。あるいはゴダールのおのろけ。 またやってる。始めからずっとやってる…
人生は悲劇である。との、諦観に宿るコメディの強かさ。その限りにおいては、霊と交信するなどと馬鹿げたスピリチュアルも、一種の救済として機能するアクロバティック。 夜明けと共に希望の光が差し込むラストシーンとは、なんと月並みな表現。だが、これぞ…
“恐怖は美なり美は恐怖なり” 厭世的に故郷を彷徨う『鬼火』のそれとはまるで対照的に、夏至は太陽の沈まないパリの街を散歩でもするように、死への恐怖とは生への欲望を、新たな出逢いに希望を見出す逞しさ、美しさを放つ女の哲学。 劇中劇のサイレント映画…
すべてはクライマックスの “種あかし”に集束する、仁義。 ソフトハットにトレンチコートを纏ったベルモンドの出で立ちが、『サムライ』でのアラン・ドロンと酷似する。が、個人的には断然、後者推し。フレンチ・ノワール、メルヴィルの深い陰影に浮かぶアン…
「すべての葉を失っていくようだ」 自分が自分でなくなる感覚。娘の顔すらわからなくなる悲しみ。そんな悲しみさえ忘却の彼方へ消えていく無情──死よりも先に無が訪れる病のどうしようもなさ。時間とはつまり記憶の連続性を失い、独りタイムリープを繰り返す…
恐竜をまるでペット扱いし、家畜化し、あるいは逆にモンスター化し、畏怖の念を捨て去ったシリーズの末路。 スリルも浪漫も失われ。とってつけた“共存”のメッセージも深掘りされることはなく。脈絡なく乱発される旧作オマージュ、どこかで見たようなスパイア…
壁と海に囲まれた“天井なき監獄”、ガザを一軒の閉ざされた美容室に見立て、サイレンや銃撃戦の轟音が鳴り響く、日常が戦時下である彼女たちのリアル、そのカオスと閉塞感を伝える群像劇。 今作から8年後の現在、イスラエルの宣戦布告によりさらなる戦火に覆…
愛に破れたハートブレイクマンの七転八倒をスラップスティックに描く。喪失より怒りを経て、受容に至るまでの自問自答、自己陶酔的な葛藤を別人格に表出させ、痛々しいラブストーリーに訴える。ロマンスは死せず。『ナチュラル・ボーン・キラーズ』を引用し…
目を閉じれば暗闇の中、静寂を切り裂き、サブリミナルに明滅する悪夢のフラッシュバック。逃れるように甘美なる明晰夢に堕ち、ヒロイックな誇大妄想を浮かべる──タイムリープをくりかえし、命を賭して少女を救う。それが自らの救いともなる。夢と現実をさま…
POV作品としては稀有なほどのキャストのカリスマでもって牽引するシリーズにあって、工藤、市川の不在を補うべく、カメラマン田代が奮闘を見せるも力及ばずといったところ。宇野と白石の虚実をうつろう迷コンビも、「コワすぎ最終章」と身構えることにはやや…
琵琶の旋律に虫の声、鳥のさえずりが響き合う静謐で流麗な映像美に反し、戦闘機の轟音やよもや怪談のそれのような不穏で不可解な劇伴との不協和音は、対位法による重層的なテクスチャ、あるいは『ミツバチのささやき』をも想起する暗喩表現を思わずにはいら…
夢ならば覚める。悪夢とて終わる。それが過去に起因する記憶の“アーカイヴ”に過ぎないとしたら。現在、未来へと絶え間なく押し寄せる時間の波に埋もれ、その喜びや悲しみさえもやがては薄らいでいく人間の無常。片や、命ある限りにおいて、永遠を有する人工…
誰もを魅了する屈託のない笑顔、共演者と恋に落ちれば虚実ないまぜのラブストーリーをフィルムに焼き付ける。その天性の純真さゆえにハリウッドの魔境に迷い込み、メディアの狂騒に苛まれ、そして虚言癖のソシオパスにマインドコントロールされ落ちぶれてい…
『アンビリーバブル・トゥルース』、『トラスト・ミー』と、初期ハル・ハートリー作品のミューズ。さらには昨今のムーブメントにも繋がる、フェミニズム映画作家の先駆けでもあったエイドリアン・シェリーの半生を称えるドキュメンタリー。しかしながら、200…
『ミツバチのささやき』のアナ・トレントを彷彿とする、純真無垢なダイヤの原石。きっと誰もが目を奪われる、ヒマラヤ山脈の秘境に暮らす9歳の少女、ペム・ザムとの出会いが本作の成功を約束する。 “世界で一番幸せな国”にもグローバリズムの波は押し寄せる…
米軍撤退によるタリバン復権以降、2023年現在、アフガニスタンの女性たちが強いられる抑圧状況を鑑みるに、(たとえ2016年の作品だとしても)今作における、いかにも“アメリカ白人女性”的な自己実現の葛藤など、あまりに瑣末。無責任で欺瞞的な戦争当事国と…