散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

ファーザー

「すべての葉を失っていくようだ」

自分が自分でなくなる感覚。娘の顔すらわからなくなる悲しみ。そんな悲しみさえ忘却の彼方へ消えていく無情──死よりも先に無が訪れる病のどうしようもなさ。
時間とはつまり記憶の連続性を失い、独りタイムリープを繰り返すかのごとく途切れ途切れの刹那を生きる混乱の様を、いわゆる“信頼できない語り手”によって疑似体験させる恐怖映画。時間の芸術である映画にこそ語りうる恐怖と哀しみ。やがて安寧の訪れるその時まで。


☆3.6