散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2023-12-08から1日間の記事一覧

サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~

突難を二度も患った身としては、全く他人事ではない失聴の危機を追体験する。耳鳴りに始まり、水中に突き落とされたようなこもった世界に、実はノイズで溢れる難聴の症状を音響効果にて再現する。まさにあの数週間の悪夢がよみがえる。 聞こえるはずの音が聞…

ニューヨーク 親切なロシア料理店

ロネ・シェルフィグの過去作で言えば『幸せになるためのイタリア語講座』に通じる、弱き者たちの繋がりに救いを見出す群像劇。誰もが手と手を差し伸べあって生きていくべき隣人愛を謳う。しかし、そんな真っ当なドラマがおとぎ話にさえなり得ず、空虚に流れ…

キャメラを止めるな!

すかし芸がことごとくハマる。ドメスティックなはずの笑いのツボを共有しうる日仏の親和性。恐怖と笑いが紙一重ならば、エログロを許容してきた両者の歴史を鑑みるに、今作がハリウッドリメイクではなかった必然性が感じられる。 血と汗と涙とゲロの結晶。“…

ミセス・ハリス、パリへ行く

ドレスを纏う乙女の恍惚。恋に恋するときめきのような。 いつまでも美しくありたい、その純粋な美への欲望。誰のためでもなく、むしろ私が私であるために着飾る“実存的”な、オシャレがあてどない人生の原動力ともなりうる。ジェンダーレスの世とはいえ、まだ…

TENET テネット

150分の長尺の大半が映画的アクションとは分離した、説明のための説明描写であり、見ることよりも理解することに労を割かれるノーラン節がここに極まれる。逆再生というプリミティブなギミックも有機的に機能しているとは思えず、理の通らない難解さにもギブ…

ノック 終末の訪問者

エコーチェンバーに陰謀論と蔓延るこのご時世に、非科学的なカルトを結果的に肯定しかねないシャマランの迂闊さ。世界の命運を“物語”に託し過ぎることの暗部がここにきて露呈する。 ☆3.2

新感染半島 ファイナル・ステージ

『新感染』の衝撃から4年。ゾンビで埋め尽くされた韓国は仁川で、さながらマッドマックスのようなカーチェイスが繰り広げられる。主人公が一般市民より武装した元軍人となれば、アクション過多にバイオハザート化する、ゾンビの存在感は薄まり、一番怖いのは…