散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2021-01-01から1年間の記事一覧

メイズ・ランナー:最期の迷宮

マッドマックス×ワイルドスピード(MEGA MAX)なアバンタイトルをピークに、もはやメイズでもランでもない凡なるアクションが如何にもYA映画といった既視感の中で繰り返されるトリロジー最終章。 少なからず驚かされるのは、その思想的帰結である。若さゆえ…

ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー

『ローグ・ワン』に続く監督交代劇に見舞われながらも、しかし作品全体に漂うオプティミスティックな空気感は後任のロン・ハワードがジョージ・ルーカスの盟友であり、他のクリエイター陣のような“父子”の関係に縛られていないことにその所以があると思われ…

スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け

結局は血筋、つまりは選ばれし者たちの物語に閉じていくなど──『最後のジェダイ』肯定派としては到底受け入れがたい軌道修正の数々。あるいは場当たり的な帳尻合わせに終始するファンムービーへの帰着。一度は高々と掲げられたはずの旗をまるでへし折るよう…

IT/イット “それ”が見えたら、終わり。

薄闇にふと、天井の木目調がシミュラクラを浮かべる時、“それ”は突然、姿を現したのだった。 隣で眠る弟を起こさないようおもむろに立ち上がり、まだ明かりのついたリビングへ、両親の元へ急ぐ。まるで平静を保つかのように、しかし内心では感じたことのない…

名探偵コナン 時計じかけの摩天楼

劇場版第1作にして、最も映画然としたシリーズ屈指の名作ではないだろうか。 最初で最後かもしれない映画化への意気込み、「映画」というものへの熱い情熱が全編にみなぎる一大エンターテインメント。そのアクションにせよ、サスペンスにせよ、ロマンスにせ…

ブラック・クランズマン

スパイク・リー彼自身が、世論を動かすアジテーターとしてのカリスマをすでに纏ってしまっている以上、どんなに立派な映画であっても、まごうことなき正義(Right Thing)がなされていたとしても、むしろだからこそ、まずは一歩引いて疑うことから始めなけれ…

ベルリン・シンドローム

実話を基にする監禁モノのそのリアルな暴力描写よりも、それが男性社会で縛られる女性たちの痛みのメタファーとなりうることよりもまず、誰もが一度は思い描くであろう理想の恋がその実、悪夢に他ならないという非情なる眼差しにショックを隠し切れない。 幸…

ラスト・クリスマス

君は君だよ。 そのトートロジカルな愛を伝える幾千万ものラブソングがあり、ラブストーリーがあり。僕が僕であるために言葉を紡ぐのも同じ。 「普通」というしがらみに傷つき、がんじがらめになっている君へ。君はいつかの僕でもあって。他の誰かと比べるで…

黒いオルフェ

一夜のカルナヴァルへと導かれるようにして、断続的なサンバのリズムとリオの街に響くあらゆる不協和音が、モダン・ジャズにおけるポリリズムを奏でるかのような熱狂を渦巻く。 果てしないカオスを生み出しながら、すれ違い合いながら、はかなくも重なり合う…

ゆれる人魚

この身を滅ぼすほどの恋は初恋。その儚さゆえの美しさのために、少女は声を失い、泡となり消える。 すべてを捧げる純愛の愚かしさ、可笑しさ、悲しみを彩る世界のなんと醜く、血生臭くきみょうきてれつで、グロテスクなことよ。 純白を染める耽美なる赤よ。 …

静かなる叫び

ファーストカットの“急襲”より、銃口を突きつけられたまま続く77分の緊迫感。1シーンの弛緩もなく、やはりヴィルヌーヴのカメラからは一瞬たりとも目を離すことができないのであった。 それは傍観者のまなざし。 閉ざされたモノクロームに響きわたる静かなる…

レプリカズ

愛によってなされたことは、つねに善悪の彼岸にある。 “神”をも殺しうる非倫理的な思想。その傲慢で愚かな、ゆえに本質的に人間的な欲望への称揚。狂気に溺れる人間の所業が、“自然の法則”に反するわけもなかろうが。 ☆3.1

特捜部Q カルテ番号64

揺らめくネオンに、煙草の煙、階段の昇降、クローズアップと、ほのかに醸すほどの作家性の痕跡。職人監督仕事とはいえ、私的ベストムービーの一つ『恋に落ちる確率』のクリストファー・ボーとニコライ・リー・コスの再タッグが嬉しい。 脚本はシリーズを通し…

摩天楼はバラ色に

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマーティがそのまま大きくなったような、チビで純情でガッツにあふれる我らが主人公像の再登場。『フットルース』の監督の下、その軽やかなステップにも磨きがかかる。 シンセとサックスの絡み合うベタベタな80'sマナー…

キューティ・ブロンド

ブロンドの誇りに、ピンクの鎧。キューティでプリティな、ガールズパワーの反骨心。 社会に蔓延る偏見や抑圧をはねのけてみせる揺るぎない信念とは、愛。愛の至上を謳うロマンティック・コメディを様式美に、"Love Myself" の精神へと辿り着く。それは今日的…

聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア

人間のグロテスクな本性と、世の不条理の条理をまるで無感情に鳥瞰する神の視点。あるいは悪魔の冷徹な眼差しに平伏す人々の異様な、滑稽な。しかし全く笑えない薄ら寒さが終始、画面を支配し続ける。 「イピゲネイアの悲劇」をモチーフに、その“メタファー”…

がんばれ!ベアーズ

勝利至上主義に向けられる疑心のまなざし。大人の醜悪を見透かす子供たちの純真。これぞ映画的な、雄弁なる沈黙のハイライト。その1シーンをもって名作たりえる、ベースボール・ムービー・クラシック。 友達でなくとも、チームメイトたりえる。色んな個性を…

風が吹くとき

無関心ゆえの無知、あるいは無知ゆえの無関心──しかしそれにしたってあまりに残酷な不条理が襲う。その悪夢の光景、地獄絵図を眼前にしては、「無知は罪なり」と断罪する気など起ころうはずもなかったのだ。 愚かだろう、憐れだろう、そんな老夫婦のほのぼの…

メリー・ポピンズ

子供も大人もみんな揃って、口をあんぐり、目を点に、そして歌い、踊り出し、駆け出したくなる、めくるめくワンダー。どんな憂鬱も吹き飛ばすオーバーチュアの高鳴りからして、名曲、明訓あふれるその人生賛歌は、すべてが作為的な創造物たるマットペイント…

ユートピア~悪のウイルス~

『アンダー・ザ・シルバーレイク』(2018)と共通するような、オタクカルチャーとオカルトの甘美な結びつきに無邪気でいられたのも今は昔。 図らずも、陰謀論と疫病が蔓延する現実が、まるでそのままの虚構を追い越してしまった時代の不運。シーズン1での打…

ANIARA アニアーラ

この世に偶然というものが存在するのだとしたら。すべての奇跡が偶然に過ぎないのだとしたら、そこに神はなく、つまり意味もなく、ただ繰り返される生から死への営みに悟られる虚無。虚空、厭世を彷徨う──。何をそんなに絶望することがあるのかと、平気な顔…

X-MEN:ダーク・フェニックス

怒りに付け込まれるな──。 前作までにすでに乗り越えたはずの内省的なテーマを語り直し、再び新旧の三部作を強く結びつけるシリーズ最終作。『アポカリプス』の華々しいフィナーレと『ローガン』の有終の美に円環をなし終えたストーリーに付け足される(ある…

バラキ

監督は007シリーズのテレンス・ヤング。同年公開の『ゴッドファーザー』とも重なり合う実録マフィアもの。ホモソーシャルを煮詰めたような死の遊戯に、血の掟。そのマチズモ。ナイフと銃と共に生き、そして死ぬ──漢の、滅びの美学に酔いしれようか。しかし悲…

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜

今からたった40年前、ソウルの春にはじまったデモクラシーの息吹を、“平凡な韓国人”を象徴化する名優ソン・ガンホと共に追体験する。若々しく、荒々しく、未熟さゆえに愚直な民主主義への傾倒、その青き理想主義への熱量は、現在にも新たなムーブメントの起…

アリータ:バトル・エンジェル

「人間はサイボーグを愛せるか」という将来的な命題に対し、人間よりも“人間らしい”パフォーマンス・キャプチャーの感情表現によって、一先ずスクリーン内にて実現しうる異形の愛。 まんま『タイタニック』であるラストシーンの芳香が、今作のラブストーリー…

逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!

産休・育休制度について、選択的夫婦別姓について、ジェンダー論、LGBTについて、ハラスメントについて、無痛分娩について、これら日本社会が抱える課題について──こうも一から十まで説明的でなければ伝わらないものかと、ややもすれば手段が目的化しがちな…

THE WAVE ザ・ウェイブ

夕暮れの平静を引き裂くように、サイレンは響き渡る。それが津波を知らせる緊急避難警報と気づくのに数秒、何かの間違いか、あるいは避難訓練ではないとやっと認めるのに数分、わずか10分のタイムリミットはすでに時を刻んでいる。10分……たった10分後には町…

(映画生活ベストの次点メモ)

2011年 彼女が消えた浜辺,,狼の死刑宣告,白いリボン,戦争のはらわた,シーズ・ソー・ラヴリー,イースタン・プロミス,SR サイタマノラッパー2 ~女子ラッパー☆傷だらけのライム~,狂気の愛,十三人の刺客,マッドマックス2 2012年 3時10分決断のとき…

2020年の映画生活ベスト10

狼は天使の匂い“大人になりきれない大人たちの、父にはなれない男たちの、不思議の国のお伽話” インスタント・ファミリー ~本当の家族見つけました~“愛はとまらない ~Nothing's Gonna Stop Us Now~” ヘレディタリー/継承“呪いとは転ずれば祈り──” ブラック…

海辺のポーリーヌ

愛の素人はしゃべりすぎる。饒舌がすぎる。そうやって頭で考えているうちは、狂気の一種たる愛の悦びを知り得るわけもない。知り得ないがゆえに逢瀬を重ねる彼ら、彼女ら、言葉多きものたちの“災い”を愛でるように包み込む老匠のまなざし。夏のノルマンディ…