散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

特捜部Q カルテ番号64

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揺らめくネオンに、煙草の煙、階段の昇降、クローズアップと、ほのかに醸すほどの作家性の痕跡。
職人監督仕事とはいえ、私的ベストムービーの一つ『恋に落ちる確率』のクリストファー・ボーとニコライ・リー・コスの再タッグが嬉しい。

脚本はシリーズを通して『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』のニコライ・アーセルが纏め上げる。堅実な北欧ミステリーの語り口に、ゆっくりと浮かび上がる巨悪のおぞましさ。過去と現在をシームレスに交錯させながら、今作では史実と現代の社会情勢を照らし合わせ、差別構造の変容、そして優生思想の闇にメスを入れる。と同時に、4部作にわたり闇を抱え込んだ男の心を灯すように──人生を復讐に捧げるほどの憎しみ、そんな憎しみを捨て去ってしまえるほどの愛との再会を、感涙のフィナーレに映し得るのだ。

辛辣な問題提起と、その先に描く希望へのまなざし。社会性と娯楽性を両立する、これぞ完結編に相応しい終幕には幾ばくか晴れやかな余韻を残す。

傑作揃いのシリーズとあって名残惜しくも、その大団円によって救われるアンチヒーローの物語ならば、あるいは救済こそが物語の役目ならば、その終わりを見届けることは何よりの喜びではなかったか。

バディのキャストを一新して、シリーズは第5弾「知りすぎたマルコ」へ続く。でもそれはまた別のお話。


☆4.2