散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2021-01-01から1年間の記事一覧

ワイルドライフ

14歳──。少年は大人になる。 それは惨めな男の、生々しい女の性を目の当たりにしてしまっては戸惑い、傷つき、けれども強くなるための第一歩。父も母も決して完璧ではない、彼らも一人の人間であることを、そして自分もまた一人の人間として早晩自立していか…

おかえりモネ

「何もできなかった」という無力感と、幾ばくかの疎外感。だから「誰かの役に立ちたい」と願うばかりの“きれいごと”をそれでも生きる他ない若者たち。自分の幸せを生きられない、そんな贖罪の人生を救うドラマとしてこれ以上ないほどの共感を日々数えた。『…

アトラクション -侵略-

オールドメディアからSNSに至るまで言論統制を強めるロシアその国内における「世論」のコンテクストを読みきれない外国人にとって、今作のような大衆映画が社会風刺たりえるのか、はたまたプロパガンダ的であるのかは見立てがつかない。 映画は常に時事性を…

ヴェノム

恋に仕事に、すべてを失った男の誇大妄想、“負け犬”の復讐戦をまるで“最悪”でも“残虐”でもない、こんなにも愉快なバディムービーに仕上げてしまうんだからさすがのマーベル印。(きちんとルーベン・フライシャー映画とも言える) トム・ハーディとミシェル・…

ザ・バニシング-消失-

第一に、このような悲劇に見舞われてしまう恐怖。第二に、危うく共有してしまいかねない好奇心。考えうる限り最悪の悪夢と、抗おうにも逆らえない人間のおそらくは本来的な欲望。人生にまとわりつく最大のオブセッションと言っても過言ではないような心象風…

ジャスティス・リーグ

DCEUのマーベル化という悪手。シリアス路線の賛否はあれど、スーパーヒーローの苦悩は世界の混沌と深い闇を、それゆえ希望の閃光をコントラスト鮮やかに描けたものを。 真価はスナイダーカットに。 ☆3.1

ビルとテッドの地獄旅行

キアヌ・リーヴスという役者の二面性、あるいは本質について外すことのできない「ビルとテッド」シリーズ第二弾。 不屈の楽観主義者か、度が過ぎたおバカか。やはり白痴こそが真実を語るのか、 “BE EXCELLENT TO EACH OTHER” との至極賢明なメッセージに感銘…

IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。

忘れられない記憶とともに忘れたくない思い出がある。どんな悲しみにも愛おしさを孕む、そんな過去を、故郷を、捨て去ることが大人になるということならば、ぼくらは一向に子どものままで構わない。誰より“ルーザーズ”の誓いを胸に、見果てぬ悪夢と戯れなが…

サイレンサー第4弾/破壊部隊

『吸血鬼』の息を呑むような美しさと、一転してとびっきりのコメディエンヌを魅せる今作の愛らしさでもってシャロン・テートの名は映画史に刻まれるのだ。いつまでも色褪せない、スクリーンの中に生き続けて。 ピース。 ☆3.1

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

60'sハリウッドへの郷愁。そんな“古き良き時代”への挽歌とともに、誰もがぬぐい切れず、歴史に暗い影を落とし続ける惨劇の記憶を虚構の光で“リライト”する。救済を施す、あるいは神の視点から世界を再構築する映画という魔法。そして現実を超えうる夢への信…

劇場版「鬼滅の刃」無限列車編

非映画的なモノローグはもはや言わずもがな、しかしそれゆえ滔々と語られる清廉潔白な言葉の数々、その力強さに胸を熱くするのも事実。普遍的かつ、より現代に正しくあるべく痛切なメッセージ。あるいはファンタジー。ノスタルジーに浸りきったこの国の無意…

僕のワンダフル・ジャーニー

出会いはいつかの別れを意味する。喜びの数だけ悲しみも募る。不安と痛みと孤独の日々だ。だけど、それでも生きている。限りある今日を生きていく。悪い日ばかりの人生じゃないって、大切なことはぜんぶ君から。 ありがとう。ごめんね。さようなら。またね。…

僕のワンダフル・ライフ

まだあたたかい愛犬を腕に抱いて歩いた帰り道、黄色い小さなチョウチョがひらひらと、涙を横切りそして飛んでいった。天国でも転生でもいい、奇跡とか運命だとかっていう優しい嘘を心より信じた。彼女の来世が安らぎと愛に満ち溢れたものであることを願った…

彼らは生きていた

記憶を物語り、思い出とする。少し楽しげにも映るそれはある種の自己肯定にも思えた。決して戦争を正当化するわけではないが、そう語る他ない彼らの“青春”の風景が鮮やかなカラーでよみがえる。通過儀礼というにはあまりに残虐な、しかしやはり刹那に美しい…

ファイナル・レベル エスケイプ・フロム・ランカラ

サメが飛ぶ。どんな憂鬱も吹き飛ばす荒唐無稽。ウェルカム・トゥ・ジャングル?信頼のアサイラムプレゼンツ。 “余分な人生”──そうだ、そうだった。人生なんてちょっとした暇つぶしみたいなもんだもんね。 ☆2.7

ダウンサイズ

ノーランの嘆き通り、誰も宇宙を見上げなくなった社会。テクノロジーもライフスタイルも、内向き、“小型化”していく現代のディストピアSFとして見た。 奪い合い、表出する格差こそが原動力、人類の本質だとすれば、富の有限性に関わらずその愚かしさは不変で…

イノセンス

あの頃。その懐かしくも鮮やかな光景は今も。甘美なる夢か、あるいは永遠に続くかのような悪夢的映画体験の記憶が、真実の探求、つまりは虚無への袋小路に僕を誘い込む。 攻殻機動隊というハードSFの続編などとはつゆ知らず(例によって鈴木敏夫の策略にまん…

オリ・マキの人生で最も幸せな日

16ミリのモノクロフィルムに揺らめく川面はきらきらと輝く。視線の先には仲睦まじい老夫婦の微笑み。負け犬ボクサーとその彼女の未来をまるで祝福するかのように。敗北の先に見る景色の中にこそ、人生で最も大切なその一瞬は映り込むものなのだろう。 古き良…

ラ・ポワント・クールト

映画を見ることでしかやり過ごせない夜があって。そしてついには映画を見ることさえもできない夜になって。ならばせめてBGM(バックグラウンド・ムービー)として、見なくとも点けているだけで心地のいい映画を聞き流そうとなれば、やはりそれはヌーヴェルヴ…

アクアマン

誰がためでもなく、皆のために戦うスーパーヒーロー。対立し、分断した世界の融和を図る21世紀型の英雄像。あるいは戦いを終わらせるための戦いこそが真の正義であるという。ジェイソン・モモアのエキゾチックな存在感が(そのステレオタイプを超越して)普…

サマーフィーリング

見慣れた公園や訪れるはずだった街の風景がただただ美しく、それゆえに哀しく。彼女の思い出と、あり得たはずの未来の残影が今も鮮やかに、しかし少しずつ色褪せていく時の流れに切なさを募らせる。 喪失にこそより強く確かめられる愛の無情を、ロメールのよ…

グーニーズ

死に触れ、あるいは恋を知って大人の階段を昇る少年たち。そんな普遍性を共有しながらも、誰かの思い出に自分の童心を重ね合わせることができない自明性にまたしても切なさを募らせる──80'sジュブナイルのマスターピースを観ては。それは憧憬であってやはり…

恐怖のまわり道

嘘に嘘を重ね、自らの記憶をも捏造して自己弁護を図る“信用できない語り手”のナラティブが、存在の不確実性を漂わせるある種のサイコスリラー。考えれば考えるほどあやふやになっていく自我は深いノワールの影に、真実は霧の中へと消えていく。 ☆3.1

スパイダーマン:スパイダーバース

何度だって立ち上がる──。 それは僕たちがただ一つの、しかしいくつもの可能性に溢れた人生を戦い抜く決意。そして誰もがみんなスーパーヒーローになりうることの証し。 スタン・リーからのラストメッセージ。 "THAT PERSON WHO HELPS OTHERS SIMPLY BECAUSE…

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ

見せない演出が畏敬なる存在を実現させた前作から打って変わって、冒頭よりその全長を現し、怒涛の怪獣歌舞伎を繰り広げる今作においても、その神秘性は揺るがず。愚かで無力な人間に対する圧倒的な、あるいは神話的な存在として再誕するGODZILLA。 自然を支…

シャーク・ナイト

ダセぇハードロックが無感情に鳴り響く。 全くもって無意味な、しかしだからこそ有意義な、こんなダウナーのどん底にもたらされる束の間の安らぎ。 疲れた心身に沁み渡る激辛グルメのような、刺激物への欲求。ジャンクムービーの極北、サメ映画を摂取する。 …

タイタニック

それさえあれば生きていられる。そう思えた恋の記憶と、そのためにならば死ねるとさえ思えた男の美学。 残酷なほどに、悲劇がゆえに美しい永遠なる刹那。人生最高の“贈り物”を胸に、まごうことなく愛が人生を救うのである。 ☆4.5

ハウルの動く城

「美しくなかったら生きていたって仕方がない」 その純潔なる心ゆえに戦争と孤独の闇夜を行き来する空想家を、日常の暮らしへと繫ぎ止める無償の愛。あるいはそれは恋とも不可分なるマザーコンプレックス。と、あるロマンチストの告白。 ☆4.0

ラヂオの時間

妥協に妥協を重ね、理想とは程遠い現実を繰り返しながら、それでもいつかの小さな奇跡を信じて日々、懸命にもがき生きる人間たちの可笑しみ。馬鹿馬鹿しいほどに愛おしく、そして尊い、全くもって無駄なその営み──人生は悲しい喜劇なり。 ショウ・マスト・ゴ…

デス・ウィッシュ

途方もない悲しみ、喪失を埋め合わせる怒り。独善的な正義への妄執、行き過ぎたヴィジランティズムへの自己陶酔。それは絶望を救済しうる暴力、復讐という名のカタルシス。 神に見捨てられるならば“死神”にも成りかわる者の甘美なる悪夢。映画(殊にジャンル…