ファーストカットの“急襲”より、銃口を突きつけられたまま続く77分の緊迫感。1シーンの弛緩もなく、やはりヴィルヌーヴのカメラからは一瞬たりとも目を離すことができないのであった。
それは傍観者のまなざし。
閉ざされたモノクロームに響きわたる静かなる叫び。憎しみと愛の相克の狭間で、彼は、モントリオールの雪景色に黒い血を落とすことさえなく去る。
銃乱射事件という凶行を起こす加害者でもなければ、被害者にもなり得ず、誰一人として救うことすらできない男の絶望。その静謐さに安らぎを覚えるほどの恐怖。圧倒的な無力感、存在への不安──。
どうしたって当事者たりえない。彼女たちの痛みを知り得ない。男は母になれないという不能感さえ漂う。フェミニズムというよりは(あるいはトランス的な)コンプレックスにも近い歪な女性崇拝が、やはり『ブレードランナー 2049』にも及ぶフィルモグラフィーに通底している。
その意味で極めて同時代的な、男性的(≠男根主義的)な映画作家であるという仮説を新たに、さらなる共鳴を確かにするヴィルヌーヴ初期の佳作であった。
☆3.8