散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

パシフィック通り/太平洋の柵

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誰もが『ラ・ブーム』で彼女と出会い、きっと恋をしたならば。こんな何の変哲もない青春ドラマにこそ重ねられる等身大の姿。あっという間に大人になる少女の煌めきが記録される成長譚。どうしたものか、とことん作品に恵まれない彼女のフィルモグラフィーにも、そんな小品がいくつか残されていることが嬉しい。

魅力が実力を凌駕するアイドルという存在において、つまり存在感が役柄よりも前面に出てきてしまうアイドル女優だからこその、それぞれの今が切り取られる。少女は大人になり、女になり、母になり、そして──。そうやって役者人生の虚実を通して、人生というものを語りうる。それが“若くてきれいなうち”だけのことならばそれまでの話。だけど母を演じるソフィー・マルソーはとても素敵だと思う(『LOL 愛のファンタジー』、『恋するパリのランデヴー』なんて超チャーミング)。歳を重ねてもなお、魅力的であり続ける才能はその人の人間性。外見の美しさだけではそうはいかない世界だ。

「誰も中身を愛してくれない」と嘆く今作の彼女に言ってあげたい。その美しさを愛でるものの多くは、あなたの人生をどこまでも見届けたいという愛のまなざしでもあったことを。


☆3.7