散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

ベルリン・シンドローム

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実話を基にする監禁モノのそのリアルな暴力描写よりも、それが男性社会で縛られる女性たちの痛みのメタファーとなりうることよりもまず、誰もが一度は思い描くであろう理想の恋がその実、悪夢に他ならないという非情なる眼差しにショックを隠し切れない。

幸福の刹那を引き延ばすべく──そんな愛への執着もまた、シリアルキラーの猟奇性と地続きにあるというまさかの、しかし否定しがたい事実を丹念に突きつける心理描写。その狂気と幾ばくかの葛藤、その加害性について、まったくもって身に覚えがないとは言い切れないだろう後ろ暗い過去を苛む。かつて永遠を誓った(そして今にも続く)純愛の、“えも言われぬ恐ろしさ”を顕にし、いわんや自己喪失にまで追い込みかねない……ヒロインの冷徹な視線の先で立ちすくむ影にその残像は重なる。

愛に囚われた男の闇と、自由を求める彼女たちの光がここでも。対照的な運命を分かつ。


☆3.6