散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-02-09から1日間の記事一覧

アップルシード アルファ

ヒロインの大きく胸元を開けたアーマーに覗くたわわ……なはずの膨らみに、一切の弾力を感じない。これは致命的な欠陥ではなかろうか。大真面目に、限られた予算の中で如何にしてテクノロジーとクリエイティビティを細部に込めるのかという問題だ。 10年前の前…

ストレイト・アウタ・コンプトン

赤と青のカラーを同じくするギャングと国家権力の横暴に虐げられる、80年代はコンプトンの町より。黒を身に纏う伝説の“スーパースター軍団”の、マイクロフォンに拡声される“リアル”はビートに乗って全米を揺るがし、世界に響き渡った。 「音楽は武器なんだ」…

ルートヴィヒ 完全復元版

全カットにわたり徹底される絵画的な構図と映画的なダイナミズムへの狂信的なまでの美の術に酔いしれば、睡魔の誘惑には抗えず、甘美なる眠りに堕ちる。 光の海に身を侵かし、抱かれる。雨音は止まず、生きる希望を失い、人生に疲れた者が悲しみと孤独を逃れ…

あなた、その川を渡らないで

映画みたいな絵空事がドキュメンタリーに記録されてしまう。ファインダーを覗く者が意図する構図には収まりきらない、被写体の二人の偽らざる共生の風景。その実在性ただ一点において、ぼくたちが願いを託し、真実を見出さんとするフィクションの意義をも深…

われらが背きし者

“血の金”を回す「悪」の組織を背きし男に、手を貸す男。巻き込まれざるを得ないのは、見過し得ない“信義”が共鳴する運命的な鉢合わせ。 女流監督の、家族や友への「愛」を至上とするウェットな視点に醸されるムードは、ジョン・ル・カレ原作ものとして異色。…

アウトサイダー

今日という日が暮れる大空の片隅にいつまでも残る黄金の光は、思い出の中で生き続ける若き君の言葉だ。 “Stay Gold” 金色の夕焼けに佇めば、水面に揺らめくさかさまの世界。 ☆3.5 (2017/10/03) Stay Gold スティーヴィー・ワンダー サウンドトラック ¥150 pr…

ブリッジ・オブ・スパイ

ユーモアが散りばめられる軽妙かつ骨太な脚本に浮かび上がるシリアスな史実の、その端正な語り口に驚かされる。世界一の映画監督が突き詰める娯楽志向と社会性がついに見事、折衷したかのような傑作。 映画に政治性を持ち込むべからずとは、笑止。我々は人間…

すばらしき映画音楽たち

映画音楽家とは、作曲家にして、新たな音像の研究家、発明家、埋もれた楽器を発掘する考古学者か。アプローチは様々に、映画に“魂”を吹き込み、観客の“目線”を振付る珠玉のメロディーは生み出される。 サイレント映画に伴奏されるピアノやシアターオルガンの…

夏の嵐

もう明日は来ない今に、過去を甦らせるモノローグ。 カーテンがすれる音や、小さな虫がぶつかる音。色や、枕の上の柔らかな髪の香や。思い出の中で感じる些細な。情事の。時の流れを止める秘かな喜び。 “永遠の喜びに、永遠の哀しみに。我らは抱き合い全てを…

若者のすべて

白と黒のコントラストを超越する光はあてられ、あるいは透き通るような儚さを帯びるアラン・ドロンに、不完全な愛の崇高なる美は託されている。愛の片割れ、兄の姿は闇に溶ける。 サングラスの奥に頬を伝う涙。寂しげな若者の涙で滲んだ瞳。涙を拭って恋人と…

A Film About Coffee ア・フィルム・アバウト・コーヒー

コーヒー産業には是正すべき搾取構造が温存されているだろうことは想像に難しくなく、そのような側面への大局的な見地はほぼオミットされてしまっていることが気にならないと言えば嘘になるが、コーヒー文化への憧憬、浪漫、その神聖なる美を物語ろうとする…

ミッドナイト・スペシャル

昨夜は疲れていた。例によって映画を見始めるも、ものの数分でうとうと、闇夜のハイウェイに浮かぶ車の眩しいヘッドライトの“光”に目は虚ろ。長いまばたきの隙間に流れる本編より連想されたイメージが1カット、2カット、断片的に挿し込まれる物語を目にして…

家族の肖像

暗闇に明かりは灯り、静寂は音楽に変わる。 絵画のようにきめ細やかで重厚な色彩の上で、物音、言葉、旋律が奔放に、巧妙に響き合う。闖入者たちを追っては擦れ違いながら見つめるカメラとの有機的な繋がりは、優美かつスリリングで官能的なほど。これぞ名画…

ゴシカ

理性的な人間であるほど、可能性としての超常現象に寛容なはずである。不可知の領域を科学で埋めていくほど、世界は広がり、さらなる謎は深まる。知を有するほどに無知を自覚する。 脳の誤作動による幻覚や、光の屈折による錯覚だと説明可能な既知の領域に対…

アイデンティティー

今宵は、秋の夜長のサスペンス劇場。 ドラマを見る行為が、砕け散った心の治癒を促す。喜劇や悲劇の何に笑い、涙するのか、着実に先鋭化していく感性に自己は“RE-IDENTIFY”される。 でも、まだ、頭痛は止まないようだ。ドアの向こうに“姿のない人”の気配がす…

レヴェナント:蘇えりし者

人間と、大自然の息遣いを目の当たりにする圧倒的なカメラワーク。 タルコフスキーやテレンス・マリックより通ずる道に呼び出される神秘性。 八百万に神を見る国の音楽家に導かれ、深淵に触れる。 ☆3.6 (2017/09/17)

ワンダラーズ

通りを闊歩するろくでなしのガキ共が日夜繰り広げる縄張り争いは、今なお大人たちがこの世界で実戦していることの縮図。男の子はすべからく組み込まれ、女の子は巻き込まれる野蛮なゲームが、人種のるつぼ、60年代はブロンクスのティーンエイジャーの群像に…

アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち

異常な“正気”が君臨する規範的な社会で、排除され、隔離され、あるいは矯正されてしまう正常な“狂気”はまぼろしを見る。 重い鉄格子の檻は解かれ、是や非の境界は消え、善も悪もすべてを綯い交ぜに為し得る世界に夢想されるマッド・ロマンス。それは小説、映…

ブルックリン

恋や、愛でさえ時にしがらみとなり。恋や、愛をも凌ぐ「自由」を希求する人々。 故郷からは遠く、時の刻み方すらまるで違う別世界へ。人と人との出会いは続く、大きな街へと扉を叩く者たち。生まれ育った町、与えられた人生に安住しない、健気で聡明で貪欲な…

コロニア

反理性の動物的な権力構造。その陰に蠢く理不尽な性と暴力。踏みにじられる人権。独裁、カルトに充満する臭気への嫌悪感と、政治と宗教の両者が結びつくことの恐ろしさが画面を支配する。 放っておけば腐敗していく世界を、私が、今、是正せんとする使命感、…

歌声にのった少年

暗闇に灯るかすかな希望、夢は確かに虚しいが、最後に残るのも夢でしかない。 少年少女はバンドを組み、知恵と勇気で工面したなけなしのお金で楽器を手に入れる。「スターになって世界を変える」世界中にごまんとある普通の青春のお話。だけどここは戦火の止…

イレブン・ミニッツ

選りすぐりの喧騒と、嘘のメロディ、“幻響”に区画される1つの街の、1つのストーリー。無限に存在する11分間。扉に隔たる無数のドラマは拡散を続ける。増大するエントロピーは臨界点を超えて収束し、局地的な爆発を起こす。鳥瞰すれば1ミクロの小さな黒点でし…

JOY

上がりは終わりを意味し、皆に平等に死が用意されている人生ゲームに勝ちも負けもない。決めるものは自分の心持ち次第。諦めたらそこで試合終了です。ですが、諦めない限り、敗者になることもないのです。 世間から隠れて、自分からも隠れて。後ろに下がる時…

デッドプール

“第四の壁”を越境する俺ちゃんは独りぼっち。そっちの世界にその時空を共有する者はいない。 口を開けば飛び出すジョークの嵐も、実は“痛みを紛らわす偽笑い”だったりして。不条理な運命を乗り越える知恵だ。真実なくして生まれ得ないユーモア。笑いに同居す…

孤独のススメ

愛とは似て非なる主従関係の鎖が解かれ、赦しと自由の時は訪れる。神と人間と悪魔の三角関係のせめぎ合いが調和へと変質する時、悪魔の“天使の歌声”は高らかに、晴れやかに響き渡る。語らずして語る寓話的表現が普遍の感動を呼ぶ。 This is Me. This is My L…