散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

歌声にのった少年

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暗闇に灯るかすかな希望、夢は確かに虚しいが、最後に残るのも夢でしかない。

少年少女はバンドを組み、知恵と勇気で工面したなけなしのお金で楽器を手に入れる。
「スターになって世界を変える」
世界中にごまんとある普通の青春のお話。
だけどここは戦火の止まない、絶望が道端に転がるガザ地区でのお話。
スターの肩にかかる重みも、変える世界の複雑さも普通とはまるで違う。

実際に現地ガザ地区で、ガザに住む子どもたちをキャスティングして撮影された前半パートが素晴らしい。
乱雑な町並みや澄んだ海岸線、生々しく張り巡らされる有刺鉄線のフェンスのそばを、溌剌と駆ける少年少女の存在感と、彼らを瑞々しく切り取るカメラ。
数日の撮影許可を取るにも困難な状況の中での奇跡的な出会いに導かれた記録映像である。

主人公に夢を抱かせる、さながらワンダーガール。実録とフィクションを横断するこの映画の精神的支柱である姉ヌール役のヒバ・アタッラー。彼女と家族がこの作品の出演料で亡命を果たし、壁の外へ抜け出せたこともこの作品のドキュメンタルな一面だ。


☆3.5

(2017/09/09)