ユーモアが散りばめられる軽妙かつ骨太な脚本に浮かび上がるシリアスな史実の、その端正な語り口に驚かされる。
世界一の映画監督が突き詰める娯楽志向と社会性がついに見事、折衷したかのような傑作。
映画に政治性を持ち込むべからずとは、笑止。
我々は人間の尊厳の話をしている。
兵士が駒でしかなく、人の命が数でしかなくなるとき、その主体である国家という概念に対する忠義とは、真の愛国とは何かを問う。
人工国家であるアメリカには、憲法の名のもとに振り返るべき理念と結び付いた“ルールブック”が存在している。
翻って、この日本国の、国民を国民たらしめるものはどこにあるのだろう。解釈によって色が変わってしまうアイデンティティーのもとで、いかなる肖像を描くべきなのだろうか。
「国難」に乗じて強権を握ろうとするファシズムも、大衆に対立を煽って「リセット」を企むポピュリストも、社会正義にはほど遠い。断じて、愛国的ですらない。
世界のリアリズムは、自由と平和や愛と正義の建前を諦めさせるものなのかもしれない。
しかしそれでも英雄と呼ばれる人は、友のために“橋”を架けようとする人であるはずだ。敵と味方を分ける“壁”を作ろうとする者にそれはいない。
☆3.8
(2017/10/01)