散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-01-25から1日間の記事一覧

エンジェル・ベイビー

精神病を患う二人の、むきだしの愛。オーストラリア映画の主人公たちは、そのピュアネスを貫き、荒廃した社会を突破しようと試みる。 正常と異常、正気と狂気の線引きによって孤立する者たちへの賛歌を、衒うことなくお伽噺へ定着させる。 ‘My Special Angel…

愛を複製する女

人は、青天の霹靂に受け止められない悲劇に襲われた時、喚き散らして悲しみの坩堝に身を投じるようなことはしない。その蟻地獄から逃れるべく、平静を装い、策を講じ、実行に移す。絶望に飲み込まれないように。それは、死を意味するから。 その女も、微動だ…

ローズマリーの赤ちゃん

新婚の夫婦が越してくる高級アパートは、後にジョン・レノンが射殺されたあのダコタ・ハウス。 妊婦の不安定な精神状態のメタファーであったはずの“悪魔”が、別の意味を持ってその実在性が窺われる頃には、只ならぬ不穏が画面を染み出し、二重三重の恐怖が迫…

キック・アス

鮮烈なニューヒロインの登場に忘れがちだが、涙なくして見られない復讐譚じゃないか。生を受けたその日に宿命を背負わされた少女は、狂気に満ちた半生に方をつけるべく、敵のアジトへ乗り込む。戦うべき理由は彼女にある。葛藤の末、“正しき義”を再点火させ…

柔らかい肌

自動車事故により、25歳の若さでこの世を去ったフランソワーズ・ドルレアック。将来を約束された彼女の死は、フランス映画界の大きな損失で、遺された作品の少なさを数える度、生まれ得なかった名作の数々に思いを馳せてしまう。愛についての映画を撮り続け…

袋小路

誰が言ったか「美女を映さずして映画に非ず」とは、裏返すと、女優を美しく撮れてさえいればそれは立派に映画であるということを、再認識する一本である。ポランスキーがカトリーヌ・ドヌーヴに続きその姉フランソワーズ・ドルレアックを撮った今作は、前作…

ロスト・ハイウェイ

サイコジェニック・フーガ。解離性遁走。現実と幻覚が混濁する超現実。 「記憶は常に自分なりに。起こった通りに記憶したくないんだ」 嫉妬に狂う愛憎を、ありふれたフィルム・ノワールが繋ぐ、“about a man in trouble”。時に、それが忌避されがちな夢オチ…

仕立て屋の恋

「愛さないで」と、懇願される愛ならば。ただ見つめていることさえ許されない恋ならば。破滅の末路を知りながら、その時の訪れを待つのみ。怒りには転じない。疎外され続けた孤独な魂は、自己完結のロマンスを夢視る。せめて悲恋を演じることで、日陰の人生…

セイ・エニシング

モラトリアムにある二人の、今そこにある愛だけを頼りに生きていかんとする無謀な旅が、長続きするはずもないのは自明である。でも、その恋路の一歩一歩が尊き人生のハイライトであることに違いはない。映画にはエンディングがある。幸せな時間を切り取って…

キング・コング

特撮映画の記念碑的作品『キング・コング』(‘33)を、ピーター・ジャクソンが私財も投じながら映画史上最高額(当時)の製作費で悲願のリメイク。 ホラー、サバイバルアドベンチャー、怪獣パニックアクションを全部乗せした、正真正銘それはラブストーリー。3…

奇跡の海

苦痛に身を捧げれば、それ相応に報われて然るべきだという普遍の“信仰”は、“純愛”と強く結びつく。盲目的な愛への信仰、否、信仰への愛に身を滅ぼしていく殉教者に、鐘は鳴らされる。 「ゴールデン・ハート三部作」の一編。ラース・フォン・トリアーのサディ…

王妃マルゴ

サン・バルテルミの虐殺を題材に書かれた歴史小説、二度目の映画化。フランス産歴史超大作。 狂乱の時代に血塗られた悲恋。 愛に生きた王妃をイザベル・アジャーニ。死体が無造作に転がる腐臭漂う地獄絵図の中に、白く発光しているかの如く神秘的な美しさを…

八日目

“現実”の日々に追われ、妻と子どもたちに見放されたアリーの前に現れるのは、ダウン症の青年ジョルジュ。 さて。ダウン症の青年に“天使”の役目を負託してしまったことで、純粋無垢を押し付け、それこそ差別、偏見の眼差しに陥ってはいないだろうか。ジョルジ…

ハッスル&フロウ

こんなはずじゃない人生に賭ける、再起。メンフィスのポン引きD・ジェイは、ある日手にした小さなキーボードをきっかけに、娼婦や旧友たちとデモテープの制作を始める。遠い日に諦めたラッパーへの夢を、もう一度取り戻す。 ここは、ライムスター宇多丸氏の…

ダークシティ

薄明りの街灯が照らし出す街並み。未来的と言うよりは寧ろレトロな、ここではないどこかを彷徨う男には記憶がない。 製作年からして、ビューティフルドリーマーなどの影響がないとは考えづらく、パッチワークな世界観ありきの印象は否めないとしても、そのヴ…

戦火の馬

児童小説を基にした舞台劇を経て、スピルバーグが映画化。第一次世界大戦に徴用されたサラブレッドの辿る過酷な運命と、行く先々で出会う人間たちのドラマ。 戦場を疾走し、跳躍するジョーイの満ち満ちた躍動感。夜の塹壕、有刺鉄線を引き摺りながら生へのエ…

幸福(しあわせ)

ヌーヴェル・ヴァーグ唯一の女性監督アニエス・ヴァルダ。「ヌーヴェル・ヴァーグの祖母」とも呼ばれるらしい。写真家の道から合流した映画作家の画作りは、1カット1カットが淡いルノワールの絵画の様に。時にはビビッドな色彩がポップアートの様に。それは…

しあわせな孤独

ラース・フォン・トリアーらによって提唱され、映画的ミニマリズムの復興を目指した映画運動、「ドグマ95」に則った作品。約束された未来を突如失った女性を、ドグマ作品らしくドキュメンタリーに観察する。 再び、未来を思い描くためには必要だった“時間”の…

素直な悪女

当時28歳のロジェ・ヴァディムは映画初監督作にして、妻ブリジット・バルドーの肢体を惜しげなく映し出し、彼女を一躍スターにしてしまう。フランスのセックスシンボル「BB」の誕生である。ところがバルドーが共演の俳優と恋に落ちてしまい、2人の夫婦生活は…

パンチドランク・ラブ

Punch-Drunk Love=強烈な一目惚れ。ラブ・ストーリーは突然に。情緒不安定な主人公を乗せた物語は、急発進、急カーブを繰り返し、ハッピーエンドへ爆走する。 フレアが射し込む豊かな色彩設計に、気抜けた音楽、度々挿入されるジェレミー・ブレイクのアート…

トーク・トゥ・ハー

眠り続ける2人の女。見守り、語りかける男たち。 エロスの充足しないアンバランスな愛の途方のない悲しみと孤独と、純愛という名の劇薬がタナトスに向かわせる条理。断定的には明かされない事の真相によっては、“無償の愛”の不可能性を覆す希望を僅かながら…

ゴースト/ニューヨークの幻

愛する人を護りたい。しかし、その術がない。ゴーストでなくともこの日常に実感として溢れている恐怖だ。 ガールにとっては、「アイ・ラブ・ユー」に包まれた甘いラブ・ファンタジーでも、ボーイにとっては、切実に危機管理の諸問題を思い起こさせる恐怖映画…

ブラス!

サッチャリズムの影響下、炭坑閉鎖に追い込まれながらも、全英ブラスバンド選手権大会にて優勝を果たした炭坑夫たちのブラスバンド、グライムソープ・コリアリー・バンドをモデルにした映画。 「アランフェス協奏曲」、「ダニーボーイ」、「ウィリアムテル序…

うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー

永遠の文化祭前夜をそのものズバリ、終わりなき終末を注文通りのユートピアとして夢見させてくれる前半部は理想的な映像空間であり、故に、そんな世界が壊されてしまう後半部はいささか心地が悪い。自分の人生を生きる“責任”への覚悟が問われるからである。 …

ハッカビーズ

なんと、これは実存主義を問う、哲学コメディ。が、突飛な語り口から斬新な解が提示されるかと思いきや、そうともなく幕が下ろされる迷作。なんだかその至らなさを可愛げとして受け取ってしまうこともある。或いは、そんな問いに対し合理的な解など端から求…

SPUN スパン

32歳の若さで急逝したブリタニー・マーフィ。虚実重なって見えてしまう、別れのラストシーンそれだけでも胸が締め付けられる。忘れがたい旅立ちの1シーン。メランコリーに、ビリー・コーガンの音楽が鳴っている。 ☆Review (2016/07/03)

デッドゾーン

スティーヴン・キング原作の映画化。事故による5年の昏睡から目覚めた時、予知能力を手にしていた男が辿る悲劇。 愛を失った絶望を埋めようと無闇に芽生える使命感、暴走する正義。 悲劇のヒーローとしては受け入れ難い、薄気味悪いムードに支配されている。…

ドーン・オブ・ザ・デッド

ジョージ・A・ロメロによるゾンビ映画の金字塔『ゾンビ』(DAWN OF THE DEAD/‘78)の現代版リメイク。人間ドラマであり社会風刺であるべきゾンビ映画を“走るゾンビ”で描き得るのかは議論の余地があるが、ショッピングモールに籠城する人々の衝突や束の間の…

3時10分、決断のとき

1957年の同名作品のリメイクは、堂々、21世紀新訳西部劇の趣き。 ラッセル・クロウ×クリスチャン・ベイルの静かなる闘争は、男としての誇り、そして父としての尊厳を懸けて。“決断のとき”、共闘のクライマックスはその勝利を意味するのである。 ☆Review (201…

リービング・ラスベガス

アルコール依存症の脚本家と娼婦のラブストーリーは半自伝的小説が原作。16mmのカメラが、煌びやかなラスベガスのネオンをも柔らかく温かな光に変える。人生に負けた男の最後のロマンチシズム。 スティングの歌うジャズナンバーがテーマ。 ☆Review (2016/07/…