散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

みじかくも美しく燃え

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幸せかい?との問いかけに、言葉にならないほどの、駆け出したいくらいの幸せだと心の中で唱えた。
柔らかな陽光に包まれ、蝶を追って野原を駆け回る二人。木漏れ日の陰をクマやウサギやと笑い合い、少女とてんとう虫と戯れる午後。
すれ違いざま、何気ない瞬間にそっと腕に触れて「好きよ」と。

「意味を失った多くの言葉がある代わりに、多くのことが意味をもった」
すべてを捨て、無垢な愛に生きることを選んだ。
俗世を捨てエデンに帰った二人の、許されざる幸福。
モーツァルトの「ピアノ協奏曲第21番ハ長調」またの名を「エルヴィラ・マディガン」の美しく夢幻的な音色。断ち切るように、ヴィヴァルディの「四季」より「夏」がけたたましく鳴り響き、短い夏は終わりを告げる。

愛する人の見る世界を知りたい」。愛する人と同じ世界を見ていたい。愛する人と共に生き、死は共に在りたい。
愛することをやめるくらいなら、何ものにも汚させることを許さずこの幸せを美しいまま、珠玉の1シーンをラストカットに銃の引き金を引こう。
“近視眼”に求め合う、それが愛だ。いや、せめて感激家の純愛であると許されたい。

「草の上に寝転ぶと、目の前に掲げた草の葉はよく見えるが、他のものの焦点はぼやける」
「だが、草の葉が全てにだってなりうる。世界は草の葉以外の何ものでもない」

両目を蔽った天使は、飛びたいのなら飛べた。見たいのなら見ることもできた。しかし愛ゆえに、そうすることを選ばなかった。


☆4.9

(2017/4/03)