散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

イット・カムズ・アット・ナイト

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「ステイホーム」の緊急事態もいずれ日常と化し、殺伐とした町並みに恐怖の渦巻く近未来がいつ訪れないとも限らない。それは誰にもわからない。わからない、ということ“それ”自体が不安と恐怖をますます醸成し、疑心暗鬼を生じ、人と人とを繋ぐ有形無形の社会機能を破壊しかねない。すでにその入り口に立っているのかもしれない。

明けない夜はない、という保証はどこにもない。一寸先の闇はすでに忍び寄り、あるいは最早“それ”に飲み込まれてしまっているのかもしれない。

“それ”の正体は明かされないにもかかわらず、故に終わりのない緊張が続くこの虚構の風景に、2020年現在の、未知のウイルスに襲われる現実の、嵐の前の静けさを思わずにはいられない。

ウイルスや、ゾンビや怪物そのものよりも、本当に怖いのは人間である──というテーマに収斂する物語はそう珍しいものではない。しかし、“それ”が外部からの闖入者に限らず、善なるはずの主人公たちの、心の内に広がる闇をも覗き込もうとするならば……恐怖の本質はまるで変わってくるのであった。

噂に違わぬA24製作、ホラーの奇作。


☆3.3