散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

デンジャラス・デイズ/メイキング・オブ・ブレードランナー

f:id:eigaseikatsu:20190221221149p:plain

『メカニズモ』から『デンジャラス・デイズ』、そして『ブレードランナー』へ。タイトルも変われば、脚本も企画段階から一新され、室内劇は大きく世界観を広げて、その鮮烈なヴィジュアルイメージをもってSF映画の金字塔と評されることになる作品の撮影はついに始まる。

ところがこれが悪夢のような日々であったようで。
リドリー・スコットの完璧主義ゆえ、スケジュールの遅れと予算超過で製作サイドと対立。一日中、雨の降りしきる過酷な現場にも緊張感が張り詰め、あげくリドリー・スコットアメリカ人スタッフとの間にも対立が生まれる。
なんとか撮影最終日のリミットぎりぎりでクランクアップにこぎ着けたかと思えば、今度は難解すぎるという判断から編集権と追加撮影の主導権が製作側に移る。
リドリー・スコットはもちろんハリソン・フォードとしても不本意なナレーションと、ハッピーエンディングが追加されるが、結局、商業的には失敗に終わり、批評的には賛否両論であった。

現在知られるような評価に定まっていくのは少し先、ホームビデオの登場が転機となる。綿密で重層的な作品の魅力と、繰り返し巻き戻して見ることのできるビデオとの相性もあって、次第にカルト化する人気。
そしてファンの声に応えるようにして、リドリー・スコットの意に沿ったディレクターズ・カットは製作される。

本作には数々のバージョンが存在するが、それらはオリジナルを修正、改変するというよりも、あるべき姿を取り戻す過程であったと見ていいようだ。

今となっては『ブレードランナー』の存在しないポップカルチャー史など想像もできないが、どんな名画もやはり数多くの困難といくつかの巡り合わせによって奇跡的に存在するものなのだった。


(2018/08/05)