散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

イリュージョニスト

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所謂、“絵がよく動いている”アニメーション。
基本的にフィックスで固定された構図は、前面に展開される各々ユニークなキャラクターのドタバタから、淡いノスタルジックな背景のその奥の方の些細な動きまでを際立って見せる。
全体が動かないことで、動いたことの意味が蓄積される。全景には変わらない世界の移ろいを知らせる。
言葉の通じない交流に紡がれるドラマは無声映画の趣きで、音楽の一音一音、環境音の一つ一つを粒だって繊細に聞かせる。

甘味と酸味のほどよい渋味。コクと深みのプレミアムな味わい。
ジャック・タチへのオマージュも素敵で、隅々まで、おつだ。

元来、1秒24コマの映画フィルム。コマとコマの隙間を脳内補完する作業にこそ、映画的芳醇は醸されるのではないかと思うことがある。技術革新によって得られる不自然に滑らかな動作には、今のところ感覚的な拒否感が拭えない。
当然、今作には前者の喜びがある。

本物に見える嘘に見られる幻想。
映画が魔法だった時代、“不思議の国”の少女が大人になるまでの束の間に見た夢。


☆3.4

(2017/4/09)