散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

ジェリーフィッシュ

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そういえば、子どもの頃に海で溺れかけたことを思い出す。
西瓜のビーチーボールがぷかぷかと沖へ流れていくのを浮き輪もつけずにどこまでも追いかけて、気がつけば足のつかない深くて濃い色の海にぽつんと一人。近くに大人の人は誰もいなくて、もしかしたら、あの時、この命はもしかしていたのかもしれない。
だけど、大事なことはそのことじゃなくて、その時に浜辺にいた今は亡き人のことだ。
ある日、突然に別れは訪れるその人へ、間に合わなかった言葉の数々を思い出す。

想像することもある。
あの時こうしていれば、せめて一言伝えられてさえいれば。運命は変えられていたかもしれないという後悔を含んだ記憶が、時より大波となって押し寄せる。
忘れ得ぬ過去から作られる、あり得ぬもう一つの現在。“永遠に果てぬ苦悩”が見させる幻想の世界にしばし漂流することもある。

そんな深くて暗い闇に差し込む柔かな光。失いし者たちの孤独を癒す光の虚構。
声にならなかった言葉、言葉にならない感情をすくい取って優しい涙に昇華してくれる詩と、音楽と、映像のファンタジア。

寂しげな眼にこそ映り込む天使の微笑みが、いつかどこかで欠けてしまった人生の、愛の一節を思い出させる。


☆4.3

(2018/3/25)