散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

2019-01-19から1日間の記事一覧

脱出

狙いが鹿でさえ弓矢を持つ手が震える文明人が、やがて、人を相手に命を奪う一矢を放つ。死の淵に立ってやっと呼び起こされる野性。崖を登るという、そのまま物理的な比喩に加え、舞台は渓流。ところにより流れは激しく、轟音を響かせる。 ☆3.4 (2016/03/17)

昼顔

シュルレアリスト、ルイス・ブニュエルの描く淫夢。 妻は夢を見る。フロイトによれば、夢は無意識下に抑圧された願望であり、延いては根源的な、つまり性愛における欲求の不満に繋がるものとされる。夢と現実の一体化を見るように、娼家へと足を踏み入れた妻…

グリフターズ/詐欺師たち

詐欺は、より高みから人を見下し操る。しかし、彼ら三人のグリフターズ(イカサマ師たち)は、自らをも欺き続けることでやっとその高次に立つことができる人間たち。偽りの仮面を脱ぎ捨てられるか、“雷に打たれる”運命に突き進むか。 選ぶは女で、巻き込まれ…

リスボン特急

まるで意思を持つように生き生きと動くカメラの雄弁なこと。画面が捉える視線の交差が、この映画の語りだ。傍らで、潮騒、雨風の音にはじまり、車や列車の走行音が断続的に鳴り響く。 フレンチ・ノワールの名手にして、ヌーヴェルヴァーグの父の遺作。 ☆3.2 …

ラスト、コーション

その女は、大きな瞳でじっと世界を見つめていた。確かな真実を。ハリウッド映画に涙を流した。大きなうねりの中心へと誘われ、やがて飲み込まれてしまっても、心までもを奪われることはなかった。女は女優だった。虚を演じ続け、果てに実を得た。いつの日か…

ストーカー

俗世から逸れた者は、自らの内に≪聖域≫を囲う。そこへの道筋を知る者は、≪秘密の権力≫を握る己のみ。不可侵に守られた最後の砦。辿り着いてしまってはならない、≪部屋≫。≪願い≫に隠れた≪本性≫に気付いてはならないから。“呪われた永遠の囚人”は≪虚像≫と向き…

冷血

トルーマン・カポーティの同名ノンフィクションノベルの映画化である今作は、同原作、名優フィリップ・シーモア・ホフマン奇演の映画『カポーティ』('05)にも通底する主題を、原作には登場しないとされる人物に言わせている。死刑の執行に立ち会うある男の台…

吸血鬼

ホラーは過ぎるとコメディに反転する。恐怖と笑いはコインの表裏とでも言えよう。そんな、感情のコインが表か裏か定まらない経過の不穏を、ポランスキー映画は演出する。しかし、今作は安心して笑っていられる。端からパロディで、ドタバタ。悲劇に見舞われ…

アナとオットー

もし、目が合っていなかったなら… ある日出会した偶然を物語で結び、必然とする僕たちは、いつしか未来に運命のときを待ち望むように。リアリスティックに対するドラマティック。すべてが伏線ならば、帰結は一つ。自らに課した物語を解かない限りは。 偶然と…

天空の城ラピュタ

ボーイミーツガール。女の子が宙から降りてきた。受け止める男の子の両腕にかかる重み。グラビティ。 ☆4.4 (2016/03/08)

トイ・ストーリー3

「権力は脅しでなく統治される者の同意から生まれるべきよ」バービー人形のそんな訴えが浮かないくらいに、トイ・ストーリーはおもちゃの世界に社会性を持ち込んでいる。キャラ化された性格やヴィジュアルからオブラートには包まれてはいるが、手を抜かずシ…

トイ・ストーリー

トイ・ストーリーシリーズは、ピクサースタッフが自身の半生を落とし込むように描くことで、観客の共感を呼ぶことに成功した。子どもの頃はきっと、子どもとおもちゃとの関係にそれを感じていたが、大人になって観返してみると、おもちゃたち同士の関係にこ…

ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール

次から次へと、エミリー・ブラウニングはまるで着せ替え人形のように。 ネオアコを中心にオマージュたっぷり、自らの好きなもの、美意識、青春を詰め込んだ、監督デビュー作にして“最高傑作”という評価を下しても早計ではないだろう、実に真っ当にパーソナル…

悪夢の惨劇

今作の死神の目的は怨念の類にあらず、和合。死後の世界にユートピアを見るカルト教団の教祖が、集団自殺から一人生き残った元信者である少女を迎えに来る。 事の結末は何らオカルティックな要素のないサスペンスとして集束するのだが。あらゆる超自然的な体…

パラドクス

無限のループ空間に閉じ込められることで起こる悲劇が裏側。悲劇が無限に繰り返される恐怖が表側の、2つが並立する“パラドックス”。 どうして悲劇は起こってしまったか。悔恨のループに閉じ込められれば、逃れられない魂の老い、先の死。 “出来事”は作為の及…