散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

ポゼッション

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壁が隔てるベルリンの街。
望んだわけではない。理屈通りにいかない。飽和状態の愛の終わり。
最早、妻は、愛していたはずの夫に触れられたくもない。拒絶反応に曝される夫は、泣きすがり、のたうち回って、絶望し、発狂していく。突然豹変した妻は、まるで“怪物”にでも取り憑かれたようだ。

「善は悪を追い出せず、悪は善を理解できない。善は私の悪を認めないし、悪は私を信じない。苦しくても演じ続けることに必死だった」

夫婦の二人を繋ぐ“愛”を主体に、互いが互いのドッペルゲンガーと対峙するドラマツルギー
白いワンピースにエメラルドの目をしたヘレンに、嘗ての妻を見る夫。
“怪物”を、理想の夫へと産み育てる妻。
妻であり、一家の母であり。愛を孕む、愛の母である女。父なるものに、最も優れた個体を求め続ける性。
“愛”を守るためには、邪悪な“自由”に手を染めることも止むを得ない。

男なら誰しも身に覚えのある、肉体的男性性における劣等感。女々しく未練がましい男の恨み節は、ズラウスキの消せない記憶の投影。
血みどろのグロテスクとエロティシズムに塗れた愛憎劇は、確かにあの日の記憶がカリカチュアされた、世界の終わりの情景。

狂気の愛”。天に召されし、“溺れた犬”の最期。


☆Review

(2016/09/07)