冒頭から数分、主人公ソハを演じる俳優の顔を見極められず、話を見失いかけてしまった。というのは、ホロコーストの時代にユダヤ人を匿った男の、実話を基にした映画。その予備知識だけで観始めたものだから、まさか空き巣で日銭を稼ぎ、ナチスの協力者と近しい素振りを見せるこの如何にも小悪党な男が、後の英雄であるはずがないと思い込んでしまっていたのだろう。
善行は、必ずしも善人によるものではない。
また、劣悪な環境に身を寄せ合うユダヤ人たちが常に一枚岩であるわけではない。わずか十数人の特殊なコミュニティにおいても、人間としての営みは途絶えない。集団生活が続く限り、人と人の間には様々な衝突が見え隠れする。
虐げられる弱者の皆が、善行のみ重ねるわけでもない。
或いは、悪行に手を染める者の心が悪意に満ちているとも限らないのかもしれない。
社会のうねりの中で、時に存在価値を問われる決断を迫られることがある。
その時、人は、何をもって自らを律するのだろうか。道徳心、宗教。保身に回ることもあるだろう。
この映画は、その解を見繕って美談にするようなことはしない。目が眩むほどの“光”だけ見せて映画は終わる。
ソハは心の内に芽生える善意に負けた。人は、善意を捨て去ることが出来なかった。その事実がより確かに、眩しく目に焼き付く。
☆4.1
(2016/03/29)