散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

泳ぐひと

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「チームに入らず自由であれ、自分のキャプテンになれ」

“他とは違う特別な私”にアイデンティティーを保ってきた。地道に歩を進めることを拒否し、社会の波を泳ぐように生きてきた。見たくないものは見ないように。認めたくないものは否定して。そうすれば、いつまでも特別な私でいられるはずだった。

しかし、いつかは夢が覚め、我が身を知る日が訪れる。人生も晩節を迎えようとしている頃。
帰る場所。我が家に近付けば近付くほど、再会する隣人の態度は冷たくなる。男をよく知る隣人ほど、突きつける言葉は非情だ。それも人生のしっぺ返し。荒れる天候が真実への過酷を物語る。
荒れ果てた嘗ての我が家を目の当たりにして、男はついに気付いてしまう。家族も仕事も友人も、彼の周りには何も残っていなかった。虚像が露になったとき、男は凍えてむせび泣くしかない。遅すぎた。

「子どもの頃はあらゆるものを信じた。つい昨日みたいだ」
既存価値の否定。カウンターカルチャーの時代。


☆4.5

(2016/03/27)