散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

トリコロール/赤の愛

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トリコロール」三部作の最終編。
自由(青)、平等(白)が、博愛(赤)に結ばれるフィナーレ。

晩年のキエシロフスキーが果たした邂逅。愛の権化たる“ミューズ”、イレーヌ・ジャコブの存在の内側から発せられる、柔和で「美しい光線」。
単なる無垢に非ず、嫌悪、疑心、偽善、復讐心、背信に触れても汚されない、理性を通った葛藤の末の意思。家族愛、友愛、隣人愛、人間愛に貫かれる“博愛”の眼差しは、失意から人間不信の闇に堕ちた老年の男にも向けられる。
“運命の連鎖”を抜け出し、死角から人の人生を覗き見ることしかできない男の、冷え切った心に光を灯す。

愛とはなにか。そんな難問に対し、その輪郭を光と影の映画芸術が映し得た瞬間。
縦横、優雅に“奇跡”の間を往来するカメラに射し込む光線は、神秘的で、恍惚。映画に抱かれ、愛を浴びるという、ある種の宗教的体験を知る。

キエシロフスキーの遺作にして、紛うことなき、“愛に関する短いフィルム”。


☆Review

(2016/09/08)