散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

ザ・スクエア 思いやりの聖域

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『フレンチアルプスで起きたこと』がそうであったように、とある一つの出来事をきっかけにして雪崩式に失墜していく権威の滑稽さをシニカルに、挑発的に見つめるブラックコメディ。

ただのエスタブリッシュメント批判ならば政治的な側面を語るものが昨今の常套だろうが、今作では現代アート界隈を入り口にその射程を国民的共同性へと引き伸ばすことで、人間ドラマから社会風刺へ、翻って人間の深層を暴く“アート”なる表現へと昇華していく。

スクリーンという“スクエア”に囲まれた安全地帯からの問題提起が、他の現代アートなるものと同様に、自らもそのスノッブな欺瞞を抱えながら繰り返される空虚な戯れに過ぎないことを示唆しながら──。
寛容と信頼、平等の権利と義務といった美辞麗句に繕われた偽善、虚飾に覆われた野蛮を自己言及的に露わにするものだ。

言行不一致、常に矛盾を抱えた生き物である人間の所業である。可笑しくも愚かしいカオスを生み出す自作自演の、なんとシュールで悲劇的なこと。その演劇的な営みを四辺のフレームにより切り取るカメラの、なんと辛辣な眼差しだろうか。


☆3.7