散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

ブリザード 凍える秘密

f:id:eigaseikatsu:20190611101639p:plain

享楽のダンスフロアに明滅するライティング、不似合いなルージュのワインレッド。欲求不満の少女たちの“テンプテーション”が閑静な郊外の町を彩る。

良妻賢母を演じ、あるいは虚飾を着飾ることでしか生きられなかった時代の。吹雪をさまよう幽霊のような、暗闇に閉ざされた母の人生を“エヴァーグリーン”に抱きしめて。娘は、同じ軌轍に極彩色を塗り重ねる。


☆3.2

Temptation

Temptation

  • provided courtesy of iTunes

ザ・モンスター

f:id:eigaseikatsu:20190518095504j:plain

大嫌い、大嫌い、大嫌い……
そういくら唱えたところで憎めっこない。罵り合った後は一人、秘密の部屋で涙をこぼす。
煩わしいほどに愛おしい、母と子の切っても切れない関係性。その宿命とも言うべき愛に煩い、眠れぬ夜がまたやってくる。

闇の深い夜と、黒に染まるスクリーンは塩梅よく混じり合う。降りしきる雨音は耳心地よく、鈍重な語り口には時より瞼を閉じて“回想”を浮かべる。
そうして短い映画が気付けば終わっている頃に、少しは気は紛れ、遮光カーテンの隙間から青白い光は差し込んでいる。

“怪物”は光を恐れる──。
五月雨があがる頃、きっと逢いたい人がいる。


☆3.2

哭声 コクソン

f:id:eigaseikatsu:20190518085933p:plain

韓国映画お得意の、あの本当に嫌な手触りのするクライム・サスペンスがまた始まったかと思えば、ゾンビは出てくるわ、エクソシスト的展開を見せるわで、気がつけば予測不能のカオスに飲み込まれてしまっている。超常的なホラーの様相を呈する。

しかしホラーと言っても、恐怖の質感としては西洋のひんやりとしたそれとは一線を画す、やはりアジア特有の湿っぽく生ぬるい、それこそ日本人としても嫌に臨場感を共有しうる、じとっと重い空気が纏わりつくような。堪え難い不快指数を維持したまま、血みどろのグロテスクはもちろんのこと、國村隼のまさに人間離れした怪演にあてられること、なんと156分の上映時間は……まさしく悪夢。白昼の悪夢。

ただ、やはりと言うべきか、それも韓国映画らしくキリスト教をモチーフとした対立の構図に回収され、きちんと閉じていく物語だけあって、思いの外、後味はそう悪くない。

かの父親の犯した罪と罰について、憐れな“人間”に下される無情な運命について、すんなり飲み込めてしまうくらいには、神と“悪魔”に惑う我が身であるからして。


☆3.2

50回目のファースト・キス

f:id:eigaseikatsu:20190512182058p:plain

月曜日がブルーでも
火曜日と水曜日が灰色でも
木曜日には挫けそうになっても……
金曜日、僕は恋をしているのさ!

"Friday I'm In Love"

恋はデジャブ──日々、恋し、恋されることの繰り返しに、きっと忘れることのない愛は刻まれるのだから。

きみに読む物語──には、おゲレツなジョークも織り交ぜて、珠玉のラブソングの数々を添えて。
悲劇を乗り越えるのはいつだってユーモアと、愛を歌うミュージックなのだから。

まるでスローモーション、時が止まってしまうぼどの恋ならば。止まったままの時間に二人、“夢”のような未来を思い描けるはずだから。

今日も一日、明日も一日、その先もずっと一日ずつの、笑っちゃうくらいの、ロマンティックあげるよ──。

人生とは、記憶の積み重ねそれ以上の感情で彩りあふれるものだから。


☆4.5

Wouldn't It Be Nice

Wouldn't It Be Nice

  • provided courtesy of iTunes

いぬやしき

f:id:eigaseikatsu:20190509095445p:plain

心優しき殺人鬼の感傷に触れ、一方、ヒーローの愛が世界を救う。
そんな風に衆愚なワイドショー化の図式で、正義と悪にレッテルを貼り分ける駄作。映画化にあたりスポイルされてしまった、原罪的な実存の問い──。

善も悪に同じ、自らの存在価値を実感しようとするエゴに変わりなければ、その対立も人間の証明に違いない。

耳をつんざく罵詈雑言、恐怖におののく悲鳴、涙で溢れるこの世界の普遍の悲しみを知ってしまっては、世界の片隅で愛に泣き叫ぶけもの。

つまり僕らはモンスター。
独りぼっちのモンスター。

底なしの深い暗闇から、
見上げた空にワンスター。


☆3.0