散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

殺意の夏

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南仏の田舎町。澄み渡る空に断末魔の叫び、その残響がこだまする。

生まれながらの原罪を背負った少女の復讐の戯曲──。

道行く誰もが振り返り、彼女の後ろ姿に見惚れる。誰も彼も彼女に夢中、夢の中。まるで映画のようにと──腑抜けな男どもを誘惑し、弄ぶ小悪魔な美女。
しかしカメラのこちら側で我々観客は彼女の素顔を見つめられる。その目が悲しみに満ちていることを。目を細める仕草にはイノセンスすらのぞかせる、あどけない少女の、途方もない悲しみと怨念に呪われた偽りの姿であることを。

わけもなく、子どものように泣きじゃくる彼女だけが本当だったのに。

愛はいつも遅れてやってくる。


☆4.3

アメリカン・ゴッズ シーズン2

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古き神は廃れ、人々は新たな神を生み出したか、あるいは自らが成り代わろうとする──新旧の神々と人間との三つ巴にあるニューエラ

アメリカ史から全人類史を射程に戯画化しようとする豪快な筆致はさすがの映像美の洪水であるが、皮肉にも、しばしストーリーテリングを停滞させてしまうことに──。

信仰に足る「物語」が一つ、光を失う。


★2.5

赤ちゃんよ永遠に

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遡ること10年か、それ以上。映画にハマり、まずはカルト映画と名のつくものをひたすらに漁っていた頃から。見たい映画リストの1ページ目に記されながらチェックされることのなかった本作を、ついに某所で発掘……!

70年代SFの近未来ディストピア観。
自然破壊と放射能汚染。スモッグで覆われる視界は偽物に溢れる、“プラスチック”な未来都市。
嫉妬と猜疑心の相互監視は全体主義へ。テクノロジーは管理社会の統制に用いられる。

そして人口増加による食糧危機。“世界連邦会議”による政策は、妊娠出産の禁止令……同じ服を着た大人たちが交換可能な赤ちゃん人形を愛でる世にも恐ろしい光景が……今以て非現実的とは言い切れないところに薄ら寒い恐怖を覚える。

しかし支配階級の言う、「適者生存」の社会の行く末はそうか。誰かにとってのディストピアは誰かにとってのユートピアであったか。

ならば、恋人たちは反逆者。
THX-1138 』、『2300年未来への旅』も同じ。愛は自由への欲望、またその逆も然り、自由への欲望は愛の本能を呼び覚ます。
愛がすなわち罪となる世界を逃走する──。
ユートピア”を捨てる二人には、アダムとイブをなぞらえる。


☆4.4

ジンジャーの朝 〜さよなら、わたしが愛した世界

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閉塞感とて美しく──。
迫る、核戦争。世界の終わりとあらば、持てるすべての麗句を並べて。

気まぐれな風に髪なびかせて。ロンドンの青白い空気に、赤毛の揺らめくエル・ファニングの等身大を煌めかせる。描画される光と画角の妙はポエティックに、既に過ぎ去った青春という名のうたかたの日々を回想するもの。

夢破れ、愛失われ、友去りゆく未来を、それでも生きていくことの価値を芸術の美に託すものだ。


☆3.8

ロンリエスト・プラネット 孤独な惑星

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『フレンチアルプスで起きたこと』や、ゴダールの『軽蔑』や。

それは前兆なく訪れる悲劇。少なくとも男にとっては。常に試され続けていることに気付きもしない男たちにとって、その変心はまるでホラー。

見渡す限りにそびえ立つ山々が、愛の不毛を見下ろしている。

水や火や廃墟といったタルコフスキー的なモチーフが配され、風と沈黙と三人の足音だけが虚空を揺らす長い道すがらは『ストーカー』のごとく神聖を思わせる。


☆3.7