散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

トレイン・ミッション

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平穏を切り裂く悲劇の往来。
またしても、不条理な運命に翻弄されるリーアム・ニーソンの戸惑い、怒りの暴発、そして逆襲へと向かう──その憂いを帯びた瞳には、どうしたって虚実重なる喪失の痛みを感じざるを得ない。

ミステリーとしての瑕疵を補って余りあるアクションの目眩。そんなまやかしにいつも、すべては家族を想うがゆえの父としてのドラマが横たわっている。

彼の俳優人生におけるアクションヒーローへの転身が意味するところ、その本意は本人のみぞ知るに違いない。だけど、少なくとも私は、彼の身に起きた悲劇を知らなかったことにして、彼の映画を見ることなどできない。

俳優たちの実人生における光と影は、映画のそれに重ねられる。役を演じるということは、虚実を重ねることにあると思うから。

こんなジャンルムービーであっても。いや、こんなジャンルムービーにこそ鬱々とした日々を癒やす我々のように、彼も一種の救いをその娯楽性にこそ見出したのかもしれない。

崇高な行いは必ずや報われる。善なる心はきっと誰かへ伝播していく。
例えば、そんなささやかな正義がすっと心にしみるのだ。


☆3.5