太陽の昇らない、霧立ち込める、そこは町とも言えない、夜。ゴダールの『アルファヴィル』、リンチの『イレイザーヘッド』にインスパイアされた、時代不明、国籍不明の、しかしどこかレトロスペクティブな舞台設計。
ドストエフスキーの『分身(二重人格)』をモチーフに、ジャンルレスに描いた悲喜劇。
颯爽と現れて、みるみる自分の“席”を奪っていくもう一人の自分は、コンプレックスを裏返した理想像の化身。
アイデンティティーを守るには、全てを乗っ取られてしまう前に、彼に打ち勝たねばならない。弱い自分が、強く在らねばならない矛盾が発生する。
ドッペルゲンガーには出会ってしまったが最後、与えられる選択肢は二つ。弱い自分に別れを告げるか、分身諸共、自らを抹殺してしまうか。
何れにせよ、負け犬は消え去る運命。
‘たった一度だけ あなたとめぐり逢い
つらい恋の思い出を抱いて ぼくは通り過ぎて行く’
別れの昭和歌謡が奇妙な調和をみせる。
主人公は自己変革を拒む。「ユニークでありたい」と。
☆Review
(2016/09/02)