散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

レディ・バード

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愛しくて愛しくて、“死ぬほど”涙がこぼれそう。

美しい世界、素晴らしい人生。
あなたの優しさ。いつだって最高のあなた。
カーステレオに流れるお気に入りのヒットソングが、声にならない言葉を、言葉にできない感動を歌う。

毛先をピンクに染めて、少し猫背のポップな反逆児は、恋も挫折も小さな絶望も軽やかに、時にド派手に乗り越えるタフで賢い女の子。

過ぎゆく反抗の季節と共に、さよなら、愛しの“レディ・バード”。少女はもう立派に、大人の入り口へと一人向かう旅路。

沈む夕日に大嫌いだったはずの故郷を懐かしみながら、一編の“ラブレター”を携え……例えばこんな映画に想いを託して……帰りたい帰れない我が道を歩み始める、旅立ちそれは別れの季節。

煩わしくも愛おしいあなたへ。
離れてみればわかること。離れなければ言えない言葉を伝言メッセージに残して。

「ありがとう」
「愛してます」
それじゃ母さん、行ってきます。


☆4.3

シンクロナイズドモンスター

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色恋沙汰と世界の終わり。
同監督作『エンド・オブ・ザ・ワールド』でも見られた奇想天外なジャンル融合、予定不調和なストーリー展開、再び。

嫉妬や劣等感、肥大化した自我のメタファーとして、まさに巨大化した“モンスター”と対峙する砂場の箱庭表現は、無意識下に眠るトラウマまたは社会的抑圧を克服するための、文字通りの心理療法的なアプローチだと解釈すればできなくもない、実は普遍的な再生の物語だと言ってしまえばそうなのだが──。

特筆すべきはそんなことではない。それどころではない、ここにきてキャリアハイのチャームを魅せる、アン・ハサウェイに首ったけ。
それはジェンダー論にかこつけた可愛いは正義の眼差し。“ちっぽけな世界”から画面を通して覗かれる虚構へと、持て余した愛を注ぐだけの憐れな男たちへのシンクロナイズ。


☆4.0

死霊のはらわた

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死霊のはらわた』のリメイクという、どうやったって冷笑に終わることが目に見えている無茶な企画で、まさか一定の成功を収めてしまったフェデ・アルバレスの手腕にまずはアッパレ。後に『ドント・ブリーズ』で脚光を浴びるのも納得の快作が長編デビュー作にして既に存在していたのだ。

スプラッターホラーでありながらコメディーでもある塩梅が本オリジナル版の肝であるが、怒涛のゴア描写がハードコア化するリメイク版においてもユーモアのセンスは失われておらず、つまり野蛮なグロテスクにも知性を垣間見ることでその娯楽の創造性を確認し、悪趣味を享受することができる。

白眉はやはり何と言っても、血の雨に染まるクライマックスだろう。この振り切れ様、恐ろしさに美しさを見紛う恍惚なんて。それも笑みを浮かべながらだ。

当初のキャスティング通り、リリー・コリンズの“悪魔”も見てみたかった気もするが、絶対にこうはならなかっただろう……なんとチャーミングで、“グルーヴィー”な力作か。


☆3.3

ジグソウ:ソウ・レガシー

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リブートと謳われるも、内容としては前作までのストーリーを正当に継承するシリーズ8作目の続編と言って違わないもの。つまり、回を重ねる毎に下降を続けるシリーズの最新作にして、出来の方も言わずもがなの……。

せっかく、原点に倣った、どんでん返しに注力したシナリオはなかなかの切れ味にもかかわらず、最後の最後にお約束を外す……画龍点睛を欠く、なんとも消化不良なハイライトなき惰性。

結局、第1作の衝撃とジグソウのカリスマというレガシーの影響力をまたしても再確認するだけの続編に間違いなかったのだが、何が恐ろしいって、9作目が作られればそれは、見ないという選択肢は存在しないということだ。

いつの間にか、逃れられないゲームの参加者。救いの道なき新章の客人は。もう罪ではなく、趣味の問題によって自ら不自由を欲求する倒錯者。


☆2.9

ポセイドン

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古き良き、幸運な、映画の出会い方。
たまたまつけたチャンネルにちょうど映し出されたワーナー・ブラザースのオープニングロゴに導かれるように、タイトルも何もわからないまま──舞台は豪華客船。どうやらパニックムービーの予兆──ほどほどのモチベーションでながら見を続ける。主演のカート・ラッセルと、『オペラ座の怪人』、最近では『コメット』も記憶に新しいエミー・ロッサムの姿を確認し、ソファーに深く腰掛ける。ステージ上の歌姫に目をやればブラック・アイド・ピーズファーギーじゃない!ここで現代人の悪癖、スマートフォンを手に取り検索をはじめ、どうやらあの名作『ポセイドン・アドベンチャー』のリメイク版であることを知る。これまた珍作の予感がするも、もう後には引けず……。

オリジナル版が"Leap of faith" の葛藤に打ち勝つ人間の証明であるならば、今作にそのような力強いメッセージは内包されない。ただし、刻一刻と危機が迫る船内からの脱出を目指して"Keep on movien'" リアルタイムアクションの緊張と興奮は、やはり人の心を熱くするものがある。

今作において、神は人間を試さないし、彼らも祈る暇があれば足を動かし、歩を進める。
なにせタイムリミットは90分。世の不条理を恨んでいる場合ではない。
死が目前に迫った時、選択肢はそう多くない。生きるための要件はシンプルかつ究極的に本質的に。その潜在能力が力強く立ち上がる。


☆3.1