隣家に、ヒッピーくずれのヌーディストを覗き見る冒頭にすぐさま『ロング・グッドバイ』を想起する。これが正解。謎に次ぐ謎に意味を与えて全貌を解き明かそうとするミステリーへの欲望を捨てて、ただただブロンド美女の残り香に誘われるままに、Los Angelesの闇へと浸水していく。揺蕩うような、ネオノワールへの陶酔──。
ハードボイルドは廃れ、ロマンティック過剰なナルシシズムの甘い罠。虚構が現実を浸食する世界観。いずれは狂気とも区別のつかないパラノイアックなまやかしに溺れ、踊らされる“夢追い人”の悪夢を追体験する。
「煉獄にようこそ」
ありもしない世界の真実と戯れ、そしてたどり着く虚無へ。
☆3.8