散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

ファウンド

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夜食のポタージュもどしそうになった。

世間的には異常とされるだろう膨大なホラー映画の脳内アーカイブを探っても、これほどの身体反応を催す作品はそう多くなかったように思う。遡ればフランス産スプラッターの『マーターズ』以来だろうか、それ級のトラウマホラーが久しぶりにきた。

この手の筆舌に尽くしがたい恐怖体験が真に恐ろしいのは、その倒錯表現が美しさという価値基準を狂わせるところにある。

まさに“未体験ゾーン”へと足を踏み入れてしまいかねない。いわゆるB級ジャンルムービーとしての定型を逸脱するオリジナリティ。ストーリーを貫く個人的な怨念に、こちらまで感化されかねないえも言われぬ恐ろしさがある。

チープなデジタルカメラのクローズアップが生々しく、ゆえに悲劇性を増して共感を誘う青春ドラマの側面も。時にファンタジックなほどの逆光が、世の不条理に立ち向かう少年の横顔を照らし出す。ブラウン管にレンタルビデオといった90年代は懐かしい手触りと共に、無防備なあの頃の童心を呼び覚ます。

全ては、この世の残酷を昇華するかの如くラストカットのために。惨たらしくも恍惚さえ感じさせるスプラッターの狂気に浸り、あぁ、こんな映画と出会うために何百、何千もの退屈な夜を過ごしているのだろうという感慨に、心底ぞっとしながら。


☆4.1