散文とロマンティック

旧映画生活の備忘録

007 スペクター

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長回しの優雅なカメラワークから始まる銃撃、爆破アクションの緩急、ヘリコプタースタントの空間の上下動。そして流れ込むサム・スミスが書き下ろした大名曲。
シリーズ随一の傑作『スカイフォール』を引き継ぐ洗練し尽くされたオープニングに、再び映像表現の一つの極北を見た気がした。
以降は前作と趣を異にするが、それでもやはり随所にシンメトリーの構図は挿し込まれ、奥行き、パノラマを駆使した贅沢でダイナミック且つ緻密な画作りに、視点の流動は凄まじい。ある意味で絶え間なく視覚“アクション”は続く、サム・メンデス×007の集大成であった。

唯一愛した女の物語。母の物語。兄弟の物語。
人間、ジェームズ・ボンドを形成する上で核となる関係性を描き切ったボンド・ビギニング4部作。振り返れば2話の前後編によって創造されたダニエル・クレイグのボンド像は、そのダンディズムを過去から一新することにも成功したように思われる。
時代遅れのスパイヒーローは血の通った人間臭い一人の男に生まれ変わり、虚構の力が衰えるこの現代に確かな求心力を得た。

芸術面においては今作で有終の美であるはずが、いかんせん興行的に成功し過ぎただろうか、続投が報じられる。


☆3.7
(2017/11/01)

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